5月以来、2度目の対戦となるエンダムに村田は「右の(パンチの)タイミングを相手がわかっているやりにくさ」を感じてはいたが、一方で自分のディフェンスの技術が通用する相手であることも理解していた。前回はエンダムの動きを見ながらも、攻撃であと一歩踏み込むことができなかったことが判定に影響した。今回はガードをしつつ、1回から積極的に攻めていった。
再戦が決まってからの反響の大きさにプレッシャーも感じたが、「それは完全に消えるものではないので、受け入れてあげなければいけない。その上でアスリートはパフォーマンスを出していく」と乗り越え、念願のチャンピオンベルトを腰に巻いた。
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2012年ロンドン五輪では金メダルを獲得。そのときは「新鮮味というか、訳のわからなさがあった」と振り返る。しかし、今回は経験値が違うという。
「今はある程度その訳がわかる。金メダルのときはどうなってしまうのかという新しい世界だったが、結局金メダルを獲ってからの人生の方が責任を伴うので大変。ということは、このベルトもまた責任を伴うもの」
自分にこれからかかる責任の重さを受け止め、また結果を残せたことに「少しは自分のことを褒めてあげてもいいかな」と頬をゆるめる。
ベルトを見せてあげたいのは息子だ。6歳になる長男はまだベルトが何であるかを理解するには至っていないが、やっと家に持ち帰ることができる。
「この前、母校の集まりに息子を連れていったんです。後輩の久保(隼、当時WBA世界スーパーバンタム級王者)が持ってるベルトを触って『何これ?』と言ってました。そのときにパパはこの前の試合でベルトを獲れなくて申し訳ないなと思っていました」
今後より大きな試合に挑戦することになるであろう村田。自身の成長も感じるが、それは他者が成長させてくれたものと語る。「たとえばエンダムが(試合後に)僕に会いにきてくれるたりすることで、それで僕も一緒に成長させてもらえる。勝った負けたの成長ではない」と人間性の大切さを感じている。
今後は勝ち続けることを求められるが、世間の評価が急激に上がっても己の実力は一歩一歩しか進まない。謙虚に堅実に、感謝の気持ちを忘れずに村田はさらなる高みを目指す。