強豪から新興チームへ…女子サッカー・田中陽子の飽くなき挑戦 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

強豪から新興チームへ…女子サッカー・田中陽子の飽くなき挑戦

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朝9時、みなとみらいに出勤し、昼の3時からホームグラウンドで練習に励む。U-17、U-20、そしてなでしこジャパンA代表の経験もある“なでしこリーガー”田中陽子の一日は、社会人として始まる。

サッカーとの出会いは「ボール蹴り」

サッカーとの出会いは、ボール蹴りからだった。通っていた幼稚園にあったトンネルの遊具に向かってボールを蹴り入れる遊びに興じていることを知った母が、地元山口市のFCレオーネ(現レノファ山口FCアカデミー)に連れて行った。

「ボールを蹴ること自体がすごく楽しく感じました。サッカーを始めてからはドリブルで相手を抜いたりゴールを決めた時が一番嬉しかったですね」

サッカーを知り、次第にのめり込むようになった田中は、小学校卒業後にJFAアカデミー福島に1期生として入学する。JFAアカデミーは、日本サッカー協会が運営する中高一貫教育の選手育成機関。生まれ育った山口を離れ、福島での寮生活が始まった。

サッカーだけの日々となったわけではない。アカデミーではマナー講座やコミュニケーションセミナーなど、人間力を高めるためのカリキュラムが用意されていた。

「慣れないこと、難しいこともたくさんありましたが、今まで経験してこなかったことが多く、とても為になりました」

INACからノジマステラへ…社会人とサッカー選手の二刀流

JFAアカデミー在籍時に2度の代表入りを果たした田中は、INAC神戸レオネッサに入団。そして2015年、当時なでしこリーグ2部だったノジマステラ神奈川相模原に移籍加入した。1部でトップ争いをしていたINACから当時2部のノジマステラへ。田中は両チームの違いをこう語った。

「INACは選手ひとりひとりのレベルが高かったため、それぞれの役割を果たすことが求められたのに対し、ノジマステラはまさに“一体“という感じ。ひとつの役割だけでなく、やることがたくさんありました」

“個”のチームから“集団”のチームへ。当然求められるスキルが変わった。運動量やフィジカル面でのタフさが必要になった。「自分に必要なことだったと思います。ここにきてそれができたのは自分の成長に繋がりました」。

同時に生活環境も変化した。午前中は社員として仕事をし、午後から練習を行う。みなとみらいの本社に出社して事務作業を行うことや、上司とともに営業活動をすることもある。

「普段と違うことをするので気持ちがすっきりします。勝手に規則正しく生活できるし、知らなかったことを学べるので人間力や知識も広がります」

JFAアカデミーと同様、サッカーでは学べないことを教えてくれる環境が、彼女に刺激を与えている。

一般的な社会人としての仕事に加え、地域の幼稚園でサッカー教室を開催することもその一環だ。サッカーを教える側になり、自身に生かせる発見もあった。

「コーチの立場になると、選手が反応しないことが一番やりづらいことだとわかりました。コーチが教えていて楽しいと思えないと、練習も質の低いものになってしまう。まずは言われたことをしっかりこなすことが大事です」

チームの指揮官、菅野将晃監督と選手のコミュニケーションについても言及した。

「菅野監督は誰とでもコミュニケーションをとってくれて声の掛け方も上手いので話しやすいです。選手がダメなときは指摘しながらも、言葉に気を使ってくれている。そういうところから繋がっていくのかなと思います」

チームメイトとはクラブハウス横にある寮でともに生活を送っている。選手たちは毎朝寮から出勤し、練習を終え寮に帰ってくる。同じスケジュールで生活しているため、予定も合わせやすく、オフの日も一緒に遊びに出かけることが多いという。

「誰かが誕生日の時は、練習後にバースデーソングを歌い、プレゼントを渡しています」

ピッチを出てもともに過ごす時間は長い。日常生活のコミュニケーションがチームの雰囲気をつくっている。

脚の骨折をきっかけに習得した両足シュート

得意なプレーは左右両足から繰り出されるシュート。習得したきっかけは、高校1年時の左足の疲労骨折だった。

「左足で踏み込むと痛みを感じたので、右足で踏み込んで左足で蹴る練習ばかりしていたら蹴れるようになりました」

2012年U-20女子W杯。国立競技場で行われたスイス戦で彼女は左右両足でフリーキックを決め、2得点を挙げた。左足の習得は怪我の功名ともいえるかもしれないが、精度を磨き、自分の武器といえるまでのものに仕上げたのは間違いなく彼女の努力だった。

しかし、課題もまだある。「今までは単純なミスが多かった。ここ(ノジマステラ)にきてその点は解決したけれど、今まで強みだったゴール前での思い切りの良さがなくなってきている」と分析している。

“なでしこジャパン”復活へ…代表入りへの意気込み

国内リーグだけでなく、世界にも目を向けている。2019年の女子W杯、2020年の東京オリンピックが控えている。今年25歳になる田中はどちらの大会も狙える。

2011年の女子W杯、日本はアジア勢初の優勝に輝いた。勢いに乗ったまま、2012年のロンドンオリンピックではアメリカに惜敗したものの銀メダルを獲得し、44年ぶりのメダル獲得となった。

国内外ともに世間を騒がせた“なでしこジャパン”だったが、2016年のリオオリンピックは出場権を逃した。

「昔は日本が組織も技術も他より勝っていた。しかし今は海外チームも組織化され、技術も高まってきている。加えて体格差があり、スペースを与えるとやられてしまう」

海外との差は徐々に広がっている。「大きい大会で活躍したい」と意気込む彼女も、離されつつある力の差は理解していた。しかしオリンピックへの想いは、テレビで観戦した平昌オリンピックで一層強くなった。

「みんなが注目するし、すごく影響力がある。メダルを獲った時の喜びは見ていて段違いでした。自分もあの場に出て活躍したい。そのためにもレベルアップして活躍できるような状態をつくっておきたい。頑張れる原動力はオリンピックです」

なでしこリーグ、W杯、東京オリンピック、そして社会人。超えなくてはならない壁は多い。しかし未知の環境を楽しむことができる彼女なら、それらの壁にも臆せず乗り越えていくのだろう。

田中陽子(たなかようこ)

  • 1993年7月30日生まれ
  • 山口県山口市出身
  • JFAアカデミー福島に1期生として入学
  • 2012年にINAC神戸レオネッサに入団
  • 2015年ノジマステラ神奈川相模原に移籍

2008 年、2010年に行われたFIFA U-17女子W杯、2012年のFIFA U-20女子W杯に出場。2013年にはアルガルヴェ・カップで初のA代表となる。ポジションはミッドフィールダー。

ノジマステラ神奈川相模原 公式HP http://stellakanagawa.nojima.co.jp/

≪山本 有莉≫

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