アイスホッケー用のスケート靴やモトクロス用などの防具を着用し、街中に特設された氷の斜面を豪快に滑り降りて着順を競う「レッドブル・クラッシュドアイス」。
「Xゲームズ(※)」のインラインスケート・ハーフパイプで複数の世界タイトルを持つ安床武士選手は、クラッシュドアイスに挑戦を続けている。
※様々なエクストリームスポーツの競技大会
今シーズンのクラッシュドアイスは2018年12月に横浜で開幕し、2019年2月2日にユバスキュラ(フィンランド)で第2戦、そして2月8,9日にボストン(米国)で最終戦となる第3戦が行われた。
兄のエイト選手とともに「安床ブラザーズ」としてインラインスケート界を席捲してきた2人。
兄は横浜大会を最後に現役から退き、自らが運営するスケートパークで後進の育成に専念するようになった。そんなことから現役としては弟の武士選手の肩に期待がかかる。
インラインスケートでは兄弟ともにそれぞれ100勝を超え、「いくつ勝ったかもう分からない」という実力者だ。
1960年代終盤に東京12チャンネル(現テレビ東京)のスポーツ番組『ローラーゲーム』に出場していた「東京ボンバーズ」に父が練習生として所属していた。だから兄弟は幼少期からローラースケート靴をはき、トリック系のアクションを繰りだして遊んでいたのである。
そんなインラインスケートの王者が氷上のスポーツに参入したのがちょうど1年前。武士選手は「Xゲームズで優勝しているから、期待のまなざしで見られるのはすごいプレッシャーでした」と当時の心境を告白している。
しかし、初出場の大会はさんざんな結果だった。
「氷の上で滑ったのは2週間前から。同じスケートとは言えコース氷面がレースで削れたりするなど変化するので、もっと練習と経験が必要だと感じた」と惨敗を認めた。
しかしわずかな手応えはあって、「速い人が勝ちというシンプルなルールだから日本でやったら必ず盛り上がると感じました」とこのスポーツを全力で追求していこうという気持ちが芽生えた。
「厳しいコースなのに、本番の朝に1回しか試走できないなど非常に難しい大会です」と武士選手。
「気象条件によって氷面の変化が生じて、それを運営側が修正する時間を要するなどでスケジュールもいきなり変更する。いろいろなことにパッと対応できる柔軟性も必要だなと思いました。こういうもんだと思う開き直りが大切ですね」
「選手もそういった事情を理解しているので、協力しながら大会を盛り上げようというコミュニティが形成されています」
シリーズで海外遠征をするときは金属エッジの付いたスケートシューズを携行するだけで航空機手荷物の重量オーバーとなるが、インラインスケートシューズも持っていく。
武士選手がやってくるという情報を把握した現地の関係者から、「インラインスケートでメイクする(大技を決める)ところを見せてほしい」というメッセージがいきなり来るという。武士選手は柔軟に対応する。
「ロシアに行ったら現地の人が迎えにきてくれて。ノリのいいスポーツなので滑っているとテンション高くなっちゃうんです」
プロテクターもつけていないのに、気がつくと大技を飛んでみせることばかりだという。シリーズ第2戦のフィンランドでも、せっかく持ってきているのだからと雪の中をインラインスケートで滑ったりした。
トッププロとしてのインラインスケート。挑戦者としてのクラッシュドアイス。そんな活動がリンクすることでクラッシュドアイスを続けることのモチベーションを高めることができている。
ボストン大会では敗者復活戦で敗退してしまったが、大会翌日には景色のいいところでビデオ撮影をするつもりだという。4年前に結婚し、今回は両親と奥さんが応援に駆けつけてくれた。
4年前の今日に結婚式を挙げて、4年後の今日はボストンまで応援に来てくれています。
予選は2本とも失敗して62位になったので敗者復活戦レースで勝ち上がります!!
フリースタイルも完璧メイクしたい!#RedBullCrashedIce #LZBN #goodskates #BRPjapan #papasu pic.twitter.com/ElUDtOthdi— 安床 武士 (@TakeshiYasutoko) February 8, 2019
ボストン会場はメジャーリーグの伝統的な野球スタジアムの中に特設コースが設営されるというユニークなもの。そんなシーンを家族に見せることができて顔をほころばせる。
「こんなところで滑るなんてスゴいですよ。高いスタート台から見る景色はボストン・レッドソックスの現役選手や歴代の有名選手すら見たこともないはずです。これに参加できている幸せをかみしめないといけないなと本当に思います」
なかなか知名度が上がらなかったクラッシュドアイスは、安床ブラザーズの登場もあって着実に人気が高まりつつある。
武士選手自身もこのスポーツの魅力を多くの人に知ってもらおうと、自らのポテンシャルを高める努力を続けている。
「できなかったことができても、すぐに次の課題が見つかる。次から次にそれが出てくる。長くインラインスケートを続けている原動力です。それがなかったらインラインはとっくにやめていますよ」
冬季五輪の正式種目となる可能性のあるアイスクロスダウンヒル競技。2月23日には長野県の菅平高原パインビークスキー場でクラッシュドアイスの規模を縮小した大会が初開催されることが決定した。
大会まで1カ月を切ってから開催が決まったので、運営は大変だ。
「帰国後の最初の週末にコース作りを手伝いに行きます。ただしボクは大会当日に大阪でショーがあるので残念ながら参加できないんですけど(笑)」
≪山口和幸≫