「別にスポーツをやる気はない」 青木真也の格闘技の原点は”表現” | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

「別にスポーツをやる気はない」 青木真也の格闘技の原点は”表現”

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「別にスポーツをやる気はない」 青木真也の格闘技の原点は”表現”
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総合格闘家・青木真也選手は2019年3月31日に日本初開催となる『ONE Championship』の大舞台に、次のように語った。


「うれしいとか、そういう感情はなかった」


「返ってめんどくさいことが多くなると思った」


対戦者であるONE世界ライト級王者のエドゥアルド・フォラヤン選手(フィリピン)の印象についても多くを語らない。


「よく訊かれるけど、あまりないんですよね。彼に勝つために格闘技をやっているわけじゃないから」


青木選手には、大一番を前にしたスポーツ選手にありがちな強気な発言もなければ、飾り気もない。淡々と語るが、彼の言葉の端々には揺るがない芯が通っていることに、のちのち気付かされた。


格闘技は“表現”


「僕はスポーツ選手をやりたいわけじゃないから。競技化されたMMA(Mixed Martial Arts=総合格闘技)をやりたくて格闘技をやっているわけじゃない」


青木選手は普段からnoteやTwitterなどを用いて自身の考えを発信し、2019年2月20日には2冊目となる著書『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』(KADOKAWA)を上梓した。


「(文章を書くことは)好きだからやっています。格闘技だけをやっていたら、強くならないと僕は思っています」と常日頃から放つストレートな発言は多くの支持を集めている。


3月31日に東京・両国国技館で開催されるアジア最大級の格闘技プロモーション『ONE Championship』では、4大タイトルマッチ『ONE A NEW ERA -新時代-』のメインイベントで登場する。青木選手 vs フォラヤン選手によるONE世界ライト級タイトルマッチだ。


2016年に青木選手はフォラヤン選手と対決し、3ラウンドでTKO。敗北を喫する。今回は青木選手にとって雪辱を晴らすための一戦となりファンの注目はいやが上にも高まるが、青木選手にとっては表現の場でもある。


格闘技は表現。なんで毎日練習するかというと、自分を表現する手段として格闘技を考えているから。その表現の手段が尖っていたり、切れ味がいい方が表現しやすいじゃないですか」


そのために毎日練習を重ねるが、一方で「やっぱり試合はしたくない」という気持ちもあるという。練習が辛いからではない。恐怖を感じるからだ。


「そもそも生きていくこと自体が辛いこと。楽なことじゃないし、楽しいことでもない」と前置きして、青木選手はこう続ける。


「生きていくことが辛いという大前提の中で僕は生きていて。その中でなんで恐怖を感じるかと思った時、不安定なことや不確定なことをすることは誰もが怖いと思うんですよ。どんな試合でも不安定なことだし不確定な要素が多いじゃないですか。だから怖いんだと思います」


撮影協力:TRIBE TOKYO M.M.A

自分ほど信じられないものはない


青木選手は恐怖心を隠さず、そしてそれに打ち勝つ行為もないと話す。総合格闘家だからといって強い人間、スーパーマンなどではなく、私たちと同じ普通の人間だからだ。誰かに背中を後押しされることで前に進める、行くことができる。


だから(スポーツ選手が恐怖心に)打ち勝っていくのは自分と向き合って……みたいなことは多分ウソ。カッコつけてるだけだと思うんですよね。その方が見え方がいいから」


これまで幾多の苦しい瞬間を迎えてきた。青木選手なりの乗り越え方を訊くと、「理想的な答えを言うのであれば、自分を信じて、と言えばいいんでしょうけど、自分ほど信じられないものはないと思っているし」と苦笑する。


「やらざるをえなかったとか、仕方がないからやってきたとか、死ねないから生きてきた、みたいな要素の方が強い気がしますけどね」


撮影協力:TRIBE TOKYO M.M.A

やめたい。めんどくさい。そういう風に思うことは誰しも少なからずあるだろう。でも、「死ぬのはまだ早い。痛いだろうな」といった気持ちがブレーキをかけることで、仕方なく生きている要素があるのではないかという。


「こういうことを言うとスポーツ選手としてカッコ悪いと取られるから言わないだけであって、本当はみんな思ってると思うんですよね」


青木選手は自身を「客観性を持ってしまうタイプ、俯瞰して見るタイプ」として、だから自分すら信じられない。信じてはいるけど、100%は信じていないという。


「明日僕がどう思っているかなんてわからない。1年後に何をしているかなんてわからないもの。わからないから約束をするのだと思います」


撮影協力:TRIBE TOKYO M.M.A

新日本プロレスに憧れて


格闘技は勝敗が決まるのはもちろん、試合でケガをすることもあれば自分を否定されることだってある。理不尽なことさえ多々あるため「経済的に格差が激しくリスクが高い」と思う人もいる。その界隈で生きることは、決して簡単なことでない。


だが青木選手は「それがイヤだったらやるなよって思うんです。それを覚悟してやってるんでしょって」と一蹴し、「だから僕は格闘技で理不尽なことがあっても耐えられると思っています。覚悟してやっているから」と強い意思を見せる。


「覚悟より、『観念』の方がしっくりくるかな。弱ければ否定されるし、辛いし。だって格闘技でしょ、って思います」


そう言い直す青木選手に「そう思う一方で、好きだから格闘技をやっている部分もあるんですよね」と問うと、すぐに答えが返ってきた。


「格闘技は好きだから、観念で生きてます」


撮影協力:TRIBE TOKYO M.M.A

最初に青木選手が経験した格闘技は柔道だ。1992年のバルセロナオリンピック、男子柔道71kg級で古賀稔彦選手が金メダルを獲得。それを観て小学3年生で柔道を始め、その後はプロレスの世界に魅せられた。


「僕の青春というか、一番惹きつけられたのは新日本プロレスなんです。新日本プロレスや親日ジュニアを観て、ああ、こんな過激なことがしたいなと。これが強さの象徴だなと思って。そこが僕の中の、この仕事をやる想いなので」


青木選手が「格闘技は表現」とする背景にはプロレスがあり、かつて人気を博した格闘技イベント『PRIDE』もまた影響を与えていた。2000年開催のPRIDEで覆面レスラーのケンドー・カシン選手がハイアン・グレイシー選手の前に屈した戦いを引き合いに出し、振り返る。


「(ケンドー・カシンが)ハイアン・グレイシーに負けた時、信じていたものが失われたような気持ちになったし、1年後リベンジした時はなんか救われた気持ちになったんです」


現在の若手選手はUFCなどをスポーツとして捉えて格闘技の世界に入ってくるが、青木選手が憧れたのは「表現だったり物語だったり、幻想というか、半分フィクションの世界」である格闘技だった。


だから、やりたいことが今の選手とは違う。「結局僕の原点はあの時代だから。僕はあれをやりたいので、別にスポーツをやる気はない」と言い放つ。


撮影協力:TRIBE TOKYO M.M.A

引退ってなんなんですか?


この5月で36歳を迎える青木選手は、焦りもあるという。体がいつまで動くかわからないからだ。


「45歳になったらやれることは今より減るはず。リスクも背負えなくなる。動けるうちにやれることは全部やりたい」


引退についても彼なりの考え方がある。一般的にスポーツ選手であれば現役から退き、試合に出なくなることが引退だが、「引退ってなんなんですか?試合をしなくなったら引退という意味がわからない。だって好きで格闘技やっているでしょ。僕は試合しなくても練習するし。好きだから」と展開する。


スポーツ選手の引退にも信ぴょう性を持っていないと笑う。


「だって絶対にまたやりたくなるでしょって思うし。引退する人に、僕はいつでも戻ってきてねって言うタイプ。だから引退とか全然信用していないですね


撮影協力:TRIBE TOKYO M.M.A

力を与える存在になりたい


年齢を重ねていくことで居場所や立場は変わっても、経験豊かな人間がその世界に関わっていることは続く後輩たちにとっても価値があることだ。


青木選手もゆくゆくは「格闘技界に行く人がより豊かになるような考え方の一つは残していきたい」と思っている。また、自身の格闘技を通じてやりたいことはあるが、「僕はメインストリームのスターや象徴でなくていい」とも語る。


「この世の中で価値観は多様化しているけれど、日本の社会の軸にある価値観は変わっていない。そこから外れた時にヤバいんじゃないの?と思って悩んだり、人とうまくやっていけない、学校をやめる、離婚するなど何かのレールから外れた時に、ダメなんじゃないの?と思う人は多いと思うんです」


「人とうまくやることが苦手で、自分の個性を隠すことができなくて、それでいて弱い。強さに憧れて自分が弱いことを許容できない。そう思う人の希望というか、力を与える存在になりたい


「僕の表現の大義はそれをやっているから、メインストリームのスターにはなれないと思っています。なりたくもないし(笑)


勝ち負けの世界を渡り歩いてきた青木選手は総合格闘家として、体で、言葉で表現を続けていく。31日の両国国技館、青木選手はどんな表現で私たちを魅了してくれるのだろうか。


撮影協力:TRIBE TOKYO M.M.A

《text& photo Hideyuki Gomibuchi》

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