2019年11月30日、明治神宮屋内球技場にて『花王アタックPresents 高橋由伸野球教室』が開催された。“泥だらけになりながら夢中で頑張る子どもたちや、スポーツ汚れに悩むご家族を応援したい”という花王アタックの願いから実現したこのイベント、前読売ジャイアンツ監督の高橋由伸さんは子どもたちにどんな指導をするのだろうか? イベント午前の部の様子をお伝えしたい。
どんなイベントだったの?
この日参加したのは、厳正なる抽選で当選した小学校3~6年の子どもたち。午前の部は3・4年生、午後の部は5・6年生と学年別に分けられていた。
開会式では、この日講師を務める高橋由伸さんと、サポート講師の豊田清さん、小関竜也さんが挨拶を行った。慣れない環境に緊張した様子の子どもたちだったが、高橋さんの「元気よく楽しく、少しでも楽しく野球がうまくなってくれたらいいなと思います」という言葉にスイッチが入った様子。また、小関さんから「室内の限られたスペースで行うので、バットを振るときは周りに注意しましょう。怪我をしないように気をつけてくださいね」という言葉にはうなずく様子も。
この野球教室では【打つ】を高橋さん、【投げる】を豊田さん、【捕る】を小関さんというように、それぞれが担当して指導を行う形式。参加者は予め3つのグループに分けられており、各部門を順番に体験するようになっていた。今回は高橋さんの打撃部門について詳細をレポートする。
高橋由伸の打撃指導 その内容は?
【打つ】担当の高橋さんは、指導を始める前に子どもたちを集めて自分から話しかけた。
「緊張してる?」「みんな、バッティングは得意?」「右投げ左打ちの子はいる? 俺と同じだね」
高橋さんの気さくな様子に子どもたちは次第に心を開き、雰囲気が和らいだところで技術指導がスタートする。最初にバットを構える位置について簡単な確認を行い、次にスイングについて説明を行った。
子どもたちには、まず手だけでバットを素振りするように指示する。このとき、体の中心に向かって振り下ろす動作を意識するようにと伝えていた。
「バットを自分の体の前で8の字に振ってみよう。おへその前でバッテンを作るようにね」
今度はバットを一旦置かせ、子どもたちに「ボールを投げる動作をしてみよう」と言う。バッティングなのに、ピッチング? 中には不思議そうな顔をする子もいたが、各々動作を始めた。
「投げるときは、足から踏み込むよね。バッティングも同じで、足から振り込むんだ。なぜかというと、腕よりも足の方が力があるから。足には、体全体を支え続けてるくらいの力がある。腕の力だけでは飛ばせないから、足の力も利用するんだよ」
そして再びバットを持たせ、先程の8の字スイングに足の反動をつけてやってみるように指示。やること自体は極めてシンプルな上、なぜ? に対し難しい言葉を使わずにわかりやすく説明してくれるので、子どもたちも納得した様子で動作を行っていた。
とにかく褒める!楽しい!聞いてるだけで上手くなったような気持ちに
次はいよいよ実際にボールを打つ動作へ。高橋さんがボールをトスし、子どもたちが順番に打っていく。打つ前にもう一度8の字スイングをさせ、バッティング開始!
「いいね!」「そうそう!」「オッケー!」

撮影:戸嶋ルミ
高橋さんのポジティブな声かけが効いてか、子どもたちは皆楽しそうにバットを振っていた。なかなかうまくいかない様子の子もいたが、そんなときは一度バットを置かせて、“トスされたボールをバットスイングの動作で掴む”練習をさせる。
「バットを出すつもりで手を振ってボールをキャッチしてみよう。バットにボールが当たらない時は、こうやってタイミングを合わせるんだよ」

撮影:戸嶋ルミ
教えている高橋さんも教わっている子どもたちも笑顔で、非常に和やかな雰囲気で野球教室は進んでいく。バッティングを終えた子どもたちは皆、達成感に満ちた表情でいっぱい。また「自分が打つ番じゃなくても、お友達のやっているところを見るのも練習だよ」と、“見て学ぶことの意味”を説くこともあった。
満足感と達成感でいっぱい 野球がより一層好きになる体験
全員がバッティングを終えたあと、子どもたちが高橋さんに質問をする場面も。無邪気さゆえか、中には鋭い質問も飛び出した。プロ野球選手をやっていて辛かったことはなに? という質問にはこう答えていた。
「辛いことばっかりだよ(笑)野球選手って3割打てばスゴイって言われるけど、残りの7割は失敗してるんだよね。それってつまり、辛いことだらけ。でも3割は嬉しいから頑張れるんだ」
全グループが【打つ】体験を終了したのち、イベントの終盤にミニトークショーが行われた。高橋さんは指導の総括として「この中から将来プロ野球選手になる子が出てきたら嬉しいですね。その時もし球場で自分に会ったら、ぜひ『花王アタックの野球教室で教えてもらいました』と声を掛けてください」と話した。
最後は参加者全員に記念品のボールが贈呈され、ハイタッチで講師陣の退場を見送った。
高橋さんは子どもたちに目線を合わせて優しく語りかけるが、野球の技術論に関しては少しトーンが変わる。相手は小学校低学年でも「野球人として」話をしている姿は印象的だった。こういった“相手にしっかり向き合う姿勢”は、年齢関係なく敏感に感じ取れるものだ。参加した子どもたちにとっては、かけがえのない一日になったに違いない。高橋由伸さんの人柄も好きになるイベントだった。
【まとめ】子どもたちから高橋由伸さんにズバリ質問!~野球編~
「どうやったら遠くに飛ばせるの?」
腕の力だけじゃ飛ばせないから、体全部を使って打つんだよ。特に、足の力をうまく使おう。
「どうしたら変化球を打てるようになる?」
それにはまず、まっすぐをしっかり打てるようになること! プロでも変化球をうまく打てない人もいるからね。まっすぐをしっかり捉えることが基本だよ。
「調子が悪いときはどうしたらいいの?」
いい選手は自分の状態をちゃんと理解している。自分の一番調子がいい状態をちゃんとわかっていて、戻し方を知っているから、調子が悪い期間が長引かない。自分の状態をしっかり理解できるようになろう。
「今の投手、誰なら打てる?」
千賀投手(千賀滉大:福岡ソフトバンクホークス)は無理だね! あと山本投手(山本由伸:オリックス・バファローズ)も打てないだろうなぁ。誰なら打てるだろう…… (子どもたちからは侍ジャパンで活躍した投手の名前が寄せられていました)
「外野と内野、本当はどっちがやりたかったの?」
現役時代は外野をやっていたけど、本当は内野。でも上手くなかったんだよね。坂本(坂本勇人:読売ジャイアンツ)とマー君(田中将大:ニューヨーク・ヤンキース)は子どものころ同じ野球チームで、坂本がピッチャーでマー君がキャッチャーをやっていたんだって。みんなはまだ小さいから、今のうちから一つのポジションにこだわらないほうがいいよ。大きくなったらどこが合ってるかは、まだわからないからね。
≪写真・文:戸嶋ルミ≫