2000シドニー五輪女子マラソンの金メダリスト、高橋尚子さんが「スポーツはする・見る・学ぶ・支える。2020東京五輪・パラリンピックがアスリートにとって最高の大会となるとともに、全国の子どもたちに深く興味を持ってもらい、日本を笑顔でいっぱいにしましょう」とその気持ちを語った。
高橋さんは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が立ち上げたアスリート委員会の委員長。各競技の出身者らが集まった同委員会で、さまざまな意見を集約するまとめ役としての重責を担った。
2月3日には都内で最後の委員会が行われ、高橋さんが委員会活動の意義と東京五輪にかける思いを口にした。
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アスリート委員会のメンバー 撮影:山口和幸
各スポーツの現場を知る人材を起用
アスリートを取り巻く環境が日々変化する中、アスリートの声を直接汲み上げ、2020東京五輪・パラリンピックをアスリート・ファーストの大会にしたい。世界中が注目する大会運営における、意思決定に意見を反映できる仕組みを構築しようと立ち上がったのがこのアスリート委員会だ。
1964東京五輪の開会式からちょうど50年となる2014年10月10日に第1回アスリート委員会が開かれて活動を開始。
発足時の委員長は1988バルセロナ五輪競泳背泳ぎ金メダリストの鈴木大地さんだったが、2015年に鈴木さんがスポーツ庁長官に就任したことにともない、高橋さんが委員長となった。
だれもがスポーツをする・見る・支える社会を実現したい。地域や社会の模範となるアスリートを育てたい。パラリンピックを契機に共生できる社会を実現したい。この3つの柱を掲げるアスリート委員会は、各スポーツからその現場を知る人材を委員に起用して活動してきた。
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撮影:山口和幸
持ち前の明るさで五輪ムーブメントを醸成
日本中に知らない人はいないほどの地名度を持つ高橋さんだけに、最も期待された役割は五輪ムーブメントの醸成だ。
「Qちゃん」と呼ばれて親しまれる明るい笑顔が持ち味。「みんなで五輪・パラリンピックを盛り上げていきましょう」と精力的な活動を行った。
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撮影:山口和幸
「東京2020みんなのスポーツフェスティバル」も委員会から出たアイデアだ。
小中学生が学校行事として最も親しんでいるのは、運動会。「これは言い換えるとミニオリンピックだ」と高橋さんは言い切る。創意工夫を凝らした各校の運動会を全国から募り、委員会で審査して優秀校を表彰する。
「運動が苦手な子もいると思いますが、それでも運動会の準備のために一生懸命になって参画したりする。主体的に事前学習したりする学校もあります。そういった動きがそれぞれの学校のレガシーになってくれれば嬉しいです」と高橋さんは目を輝かせる。
5年半にわたるアスリート委員会の活動は、時として低迷する時代があったという。合計11回におよぶ会議の中には盛り下がってしまうシーンがあっても当然だ。
「どうしたらみんなが主体性をもって議論に参加してくれるだろうか? 会議後のロビーで高橋委員長は2時間以上も立ちっぱなしで思いを熱く語っていたことを記憶しています」と、元バスケットボール選手で同委員の萩原美樹子さんが証言している。
最終回となった第11回委員会でも、高橋さんの存在感は確かなものがあった。司会進行をしながら各委員の意見をメモしたり、事務局サイドの報告が続いて現場の雰囲気が硬直してしまったと感じたときには、「みなさん、肩の力をちょっと抜いて…」などと絶妙な気配りを見せた。
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撮影:山口和幸
「全国に笑顔がいっぱいになって嬉しかった」
アスリート委員会の活動業務としては、例えば選手村の設備としてあったらいいものや、過去大会の反省をふまえて改善すべき点など、五輪・パラ代表選手に直接関係する事柄がイメージされやすい。
もちろんアスリート委員会がこれらを取りまとめて大会側に提案する。ただしこれは幾多もあるアスリート委員会の役割の一部分だ。
高橋さんがコントロールする業務は思いもつかなかったようなテーマが無数にあって、それを実現するためにさまざまな意見を取りまとめていくという役割であったことがうかがえた。
「組織委員会の戦略もあって、連日メディアにさまざまなニュースが取り上げられています。機運醸成にこれだけプラスになっていることはありません」と高橋さん。
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撮影:山口和幸
最後の委員会に同席した組織委員会の森喜朗会長も高橋さんに全幅の信頼を置く。
「議事進行の時間もしっかりと守るし、着実に目的に向かって努力する。いかにもマラソン選手だと思った。アスリート委員会は東京五輪・パラリンピックのために発足したけれど、全国の子どもたちにスポーツの楽しさを知ってもらうきっかけ作りに貢献した。この委員会は今回で終わりになるが、これからも高橋さんには20年後も30年後も同じ役割をやってもらいたいな」
これを受けた高橋さんはアスリート委員会の委員長として、次のようにコメントした。
「アスリートというよく知られた人を起用して全国のイベントを回るなどの成果が発揮され、多くの人に2020五輪・パラリンピックへの興味を持ってもらいました。全国に笑顔がいっぱいになって嬉しかったです」
≪山口和幸≫