あらかじめわかってはいたが実際に、スタートの映像がモニター画面に映し出されると、いささかショックでさえあった。
スタート時、いつもはランナーでぎっしりといっぱいになる東京都庁前の道路が、もぬけの殻。昨年は3万7000人以上が出走、最後尾がスタートラインをまたぐまで、30分ほどかかる。
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東京マラソン2007 (c)Getty Images
この日、そのおなじみの光景はなく、ほんの一瞬で東京マラソンは始まった。
2007年以来、すっかり風物詩となった「東京がひとつになる日」。初開催から3万人以上のランナーが東京都心を走り抜け、毎年のべ100万人が沿道から声援を送るビッグイベントも14回目。
しかし1日、東京マラソン財団の発表によると、フルマラソンの出走人数は男女合わせ179人。致し方ないがなんと寂しいことか。
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東京マラソン2020 スタート時 (c)東京マラソン財団
著者プロフィール
たまさぶろ●スポーツ・プロデューサー、エッセイスト、BAR評論家
週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとデジタルメディアの融合を成功させる。
MLB日本語公式サイト・プロデューサー、 東京マラソン事務局広報ディレクター、プロ野球公式記録DBプロジェクト・マネジャーなどを歴任。エッセイスト、BAR評論家として著作『My Lost New York~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』『麗しきバーテンダーたち』『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』などあり。
東京マラソンがここまでのイベントに育つまで
大会運営側にも、開催に至るまでには様々な困難がある。しかし今回は、新型コロナウイルス対策のためやむを得ず、エリート・ランナーのみの大会とせざるをえなかった。各所調整、準備をしてきた現場としては、無念にほかならないだろう。
そもそも東京マラソンは当時の石原慎太郎都知事の肝いりで開催にこぎつけた大会。世界五大メジャーのひとつとして称賛されていたロンドン・マラソンは、グリニッジ天文台で有名な、緑豊かなグリニッジ公園からスタート、テムズ川を渡り、ロンドンの名所を通り、バッキンガム宮殿を背景にフィニッシュする市民マラソン。
この運営の素晴らしさが評価点のひとつとなり、2012年のロンドン五輪が決まったと囁かれた。「東京マラソンを開催し、東京五輪招致へ」、そんな思いが東京の風物詩・市民マラソン開催を導き出した。
当初は、このマラソン開催さえ批難にさらされた。しかし、東京駅の鮮やかな赤レンガをバックに皇居に向かって3万7000人余のランナーがフィニッシュする、見事なイベントへと育った。
目的だった五輪開催に向け、今週8日に行われる「琵琶湖毎日マラソン」と合わせ、この東京マラソンは五輪男子代表最後のひと枠を賭けた選考レースとして結晶した。ここまでやって来るに、いったいどれだけ多くの人々の協力と苦労があったか。