今年のプロ野球の頂点を決める「SMBC日本シリーズ2020」が21日にいよいよ開幕する。V9時代の巨人以来となるシリーズ4連覇を狙うソフトバンクに対して、昨年は屈辱の4連敗を喫した巨人がどう挑んでいくのか。
SPREAD編集部では、現役時代に広島で3度、巨人で1度日本シリーズに出場し、2011~14年は巨人の投手総合コーチとしてリーグ3連覇に貢献した川口和久氏に、今シリーズの展望について話を聞いた。
■セ・リーグが苦戦するパ・リーグの「パワーピッチング」
1991年の日本シリーズでは先発での2勝も含めて4試合に登板するなど、経験と実績の両方を兼ね備えた川口氏だが、やはりシリーズはシーズンとは違ったものになると語る。
「私も日本シリーズは広島で3回、巨人で1回出場しましたが、(レギュラーシーズンとは)まったく違う要素を持っています。1点を争ううえで、先発投手の登板する順番やリリーフ投手の豊富さがモノを言います。
ひとつの試合をとっても、前半・中盤・後半と3イニングずつに分けて考えると全くドラマが変わってくる。これは日本シリーズの特徴ですね。この3つのステージを普通にクリアすれば勝てる、しかしこれが難しいのです」
ソフトバンクはシリーズ3連覇中であり、セ・リーグ球団は覇権から近年遠ざかっている。この点について川口氏は両リーグのプレースタイルの違いをあげた。
シーズンでDH制を導入しているパ・リーグの投手は、セ・リーグの投手と比較するとより多くの強打者と対戦している。またここ数年の傾向として、パ・リーグには力強い速球を軸に打者を圧倒する本格派の「パワーピッチャー」も数多く存在する。この「力と力のぶつかり合い」がパ・リーグ全体のレベルの底上げに繋がっているのだ。
「DH制のパ・リーグと、DH制ではないセ・リーグのレベルなんですよ。やはり投手力に違いがあります。バレンティンがセ・リーグで本塁打をどれだけ放ったか。その後、期待されてソフトバンクに入団しましたが、彼は本当に苦しみました。(セ・リーグは)やはりパワーピッチングに屈しているんですよ」
投手力を重要視する川口氏の指摘を踏まえて考えると、先発陣だけでなく、嘉弥真新也、高橋礼、モイネロ、そして森唯斗といった強固なリリーフ陣を擁するソフトバンクにアドバンテージがあると捉えるのが自然だろう。
■カギを握るのは巨人在籍のパ・リーグ経験者たち
対する巨人はリーグ優勝決定後に苦戦が目立ち、川口氏も「チーム力が落ちていた」と指摘。さらにクライマックスシリーズ(CS)がなかったため、「試合慣れ」の不安もあるという。
「(コーチとして)管理する立場だった経験からも、『日本シリーズへ参加した』ということで気持ちにゆとりができます。マウンドを実際に踏むことで、実力を発揮できる状態になるのです。
もし初戦でリリーフ陣を起用できる展開にならず、2戦目から投入となると、大荒れになるかもしれない。その場合、前年の悪夢“シリーズ4連敗”を思い出してしまうかもしれないですね」
王者ソフトバンクを前に不安要素が目につく巨人だが、この状況を打破するためのヒントはチーム内に存在するという。
「巨人が軌道修正をするうえで、パ・リーグやソフトバンクを知る選手が在籍しているのは大きいですね。野手では主に炭谷銀仁朗、中島宏之、ウィーラー。投手でも楽天から移籍の高梨雄平や、今年非常に頑張った鍵谷陽平がいます。
彼らがミーティングの場などでいかに(ソフトバンクについて)語れるか、これがすごく大事になります。スコアラーの情報も大事ですが、やはり実際に戦っている選手が感じていることも重要です」
■シリーズの命運を握る初戦は菅野vs千賀
なんとか昨年の悪夢を払拭したい巨人は、初戦を勝利し流れを引き寄せたいところ。注目の先発投手は菅野智之と千賀滉大であり、両軍ともにエース右腕を投入するかたちだ。
川口氏もシリーズの流れを決するのは、京セラドーム大阪での1、2戦目だろうと力を込めて語った。
「巨人としては間違いなく初戦、あわよくば2戦目もとりたいはず。東京ドームではなく京セラドームでの試合ですが、私のコーチ時代を振り返ってみても意外と相性はいいですし、プレーしやすい球場でしたね。
ソフトバンクは7回以降の継投策を確立しています。イメージするならば『6回までの野球』です。私の巨人コーチ時代も、7回・マシソン、8回・山口鉄也、9回・西村健太朗という継投でチームは躍進しましたが、他球団の関係者からは『川口さん、野球は6回までですね』と言われ、そこまで驚異に感じているのかと実感したものです。
つまり、両チーム共にいかに序盤から主導権を握れるかがポイントになってきます。シリーズ全体としてはソフトバンクが優勢と見ていますが、初戦をモノにした場合は巨人も勢いにのるはずです」
2020年の締めくくりとなる日本シリーズは、初戦、それも序盤から目が離せない熱戦となりそうだ。
文・SPREAD編集部