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2024年にパリで開催されるオリンピックから、正式種目となる“ブレイキン”。ブレイクダンスと言った方がピンとくる人も、まだまだ多いかもしれないが、そのパリオリンピックに先駆けて、もしくは照準を定めて2021年1月10日に開幕したのが、日本発世界初のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」(Dリーグ)だ。
■ブレイキンを昇華させた8ROCKS
去る18日に行われたDリーグのファーストシーズン、ラウンド10の覇者は、今回が初勝利となったKOSE 8ROCKS。これまでも「ブレイクダンスのど真ん中を踊る上手いチームだなぁ」というのが、筆者が8ROCKSを観て思う感想だったが、9ラウンドまではなかなかトップに躍り出ることが出来ずにいたところの初の快挙だ。
言うまでもなく、オリンピックに“ダンス”が正式種目として登場するのは史上初めてのこと。ダンスは、ブレイキンは、スポーツなのか、芸術なのか……。その議論はやはり不毛なので置いておくのだが、此度の8ROCKSの作品を目の当たりにしたとき、筆者の胸に「とうとうここから、ブレイキンはレガシーの域に到達するのかもしれない」という確かな予感が、感動と共に去来した。
というのも、クラシックバレエや日本舞踊、もっと言うと、こちらは逆にダンスではないが空手などの演技には確固たる「型」がある。それらは長きに亘って連なってきた歴代の全ての演者によって磨きあげられ、またそれぞれが数百年の歴史を経て基づいた、ある種の犯しがたい聖域のようなものだ。そして、そのように突き詰められ昇華した“域”にまで、研鑽を積み重ねた演じ手の妙技が達したときに、得も言われぬ、何ものにも代えがたい感動が生まれるという真実は、ここで述べるまでもないだろう。そしてそこには、紛れもなくレガシーが宿っていということも……。
■初勝利で見せた真のB-boyとしての雄姿
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(C)D.LEAGUE 20-21
1980年代前半からニューヨークのダンスシーンを中心に徐々に一般にも知られるようになったブレイキンは、1984年に日本でも公開された映画「ブレイクダンス(原題:Breakin’)」でその存在感をはっきりと表し今に繋がっている。だが、誕生からたった40年程で、並みいる各種の「先輩ダンス」を差し置いて、オリンピックの正式種目となるまでに成長を遂げてしまったのだ。日本国内でも、今やダンスはサッカーや野球に匹敵する競技人口を持つと言われており、ブレイキンの世界的な人気や影響力は、推して知るべしであろう。
今回、『雷』をテーマにした8ROCKSのダンスは、とにかく「本物で、ど真ん中で、凄くて、上手かった!」のだが、そこにさらに、先に述べたようにブレイキンのレガシーへの到達を予感させ、またその原点を思わせる迫力と重みが宿っていた。どのチームよりも激しいパワームーブを繰り出し続ける8ROCKSの今作は、審査員の一人も「こんなに動いたら死んでしまう」と語っていたほどハードで、“普通だったら10分で演じるべき内容を、演技時間の2分の中に高速の曲で詰め込んだ”という究極のナンバーである。
ラウンド10の優勝を決めた後のインタビューで8ROCKSのリーダー・ ISSEIは「ここまで長かった! でも、自分たちが信じ続けてきたブレイキンで勝つことが出来て本当によかった。間違っていなかった!」と声を震わせて語っていたが、そこにはブレイキンの語源のひとつでもある、「Break=突破する者」という、真のB-boyとしての雄姿があり、またメンバーのほとんどが九州男児だという、良きニッポン男児の爽やかな強さも感じさせてくれた。
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(C)D.LEAGUE 20-21
■予断を許さないチャンピオンシップへの道
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(C)D.LEAGUE 20-21
取材後、毎回、各チームの熱闘に心洗われ晴れやかに会場を後にする筆者だが、今回の足取りはいつにも増して軽く、胸には懐かしの映画『ブレイクダンス』の主題歌「There’s no stopping us」が途切れることなく流れていた。何か大切にすべきものがしっかりとレガシーになっていくことの嬉しさを思い、この世で確かに信じられるものとしてのエンターテイメントの素晴らしさを感じさせてくれた、ラウンド10の目撃者であった事実に感謝を捧げ、帰路についた。
7月1日に開催が決まった、上位4チームによるチャンピオンシップへのチケットを、どのチームが手にするのかはまだまだ予断を許さない状況だが、ファーストシーズンの残り2ラウンドも、ブレイキンの「型」がこの先どうなってゆくのかも、心から楽しみにしつつ、ブレイキンの輝かしい未来を引き続き応援したい。
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著者プロフィール
Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー。