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WBA世界バンタム級チャンピオン、ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)とWBO同級チャンピオン、ジョンリエル・カシメロの一戦が、8月15日(日本時間)、カリフォルニア州カーソンのディグニティ・ヘルス・スポーツセンターで行われる。井上尚弥のライバルとなる2人の対戦をじっくりと展望してみたい。
◆“老獪”リゴンドーが見せた静かな闘志「カシメロは悪魔と対峙」「その気概をリングで見せて」
戦力分析の前に、この試合が決まるまでの経緯をおさらいしておこう。このカードは今春に発表されていたが、6月20日に行われた井上―ダスマリナス戦の直前に大手プロモーターPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)が「カシメロ vs. ネアのほうが面白い」と、勝手にカードを差し替えてしまった。
ところが、ノニト・ドネア側が「カシメロは正規のドーピング検査を受けようとしない」として、対戦を拒否。カシメロは5日遅れで検査書類を提出したが、ドネアは態度を変えなかった。こうして8月14日のカードは元に戻ったというわけだ。
IBFとWBAスーパーのベルトを持つ井上としては、カシメロ(WBO) vs. ドネア(WBC)が成立していれば、その勝者と戦うことで4団体統一を達成できるはずだった。ところが、カシメロVSリゴンドーに戻ったことで2試合が必要になってしまった。
統一後にスーパーバンタム級に上がることを表明している井上にしてみれば、誤算といえるだろう。非公式だが、年内にドネアとの再戦、来年の早い時期に15日の勝者と対戦という青写真が発表されている。
■リゴンドーは過去にドネアに勝利、ボディワークに優れたテクニシャン
リゴンドーはシドニー、アテネのオリンピック2大会で金メダルを獲った技巧派のサウスポー。プロでもスーパーバンタム級とバンタム級の2階級を制している。戦績は20勝(13KO)1敗1無効試合。唯一の敗戦は、ワシル・ロマチェンコが持つスーパーフェザー級のタイトルに挑んだもの。2階級上のパウンドフォーパウンドNo1(当時)への挑戦はさすがに無謀、完敗だった。
彼がもっとも優れる点は、ダッキングやスウェイバックなどのボディワーク。パンチを交わす技術はロマチェンコと双璧といっていい。攻撃の武器は左フックのカウンターで、ボディ、顔面のどちらにも強いパンチを打つことができる。相手がひるむと、左を強く連打して仕留める決定力もある。スーパーバンタム時代にドネアの挑戦を退けた勝利は、力関係の比較になるだろう。
しかし、すでに40歳。スピードやパワーは全盛期を過ぎたといわれる。もうひとつの弱点が打たれ弱さだ。ドネア戦で2度、天笠尚(山上)戦でも2度ダウンを喫している。カシメロに似たタイプのリボリオ・ソリス(ベネズエラ)との1ラウンドにも危ないシーンがあり、勝利したものの判定は2-1と割れた。
暴れん坊のパンチが顎にヒットすれば、キャンバスに落ちるシーンも考えられる。さらに18カ月ぶりの試合に不安を指摘する声もある。
■荒っぽい戦い方ばかりが印象に残るが、実は技術も高いカシメロ
一方のカシメロは31歳。戦績は30勝(21KO)4敗だが、敗戦を経験しながら強くなり、ライトフライ、フライ、バンタムの3階級でベルトを巻いた。現在6連続KO勝ちと、バンタム級に階級を変えてから調子が上がっている。
チャンスとみるや、かさにかかってなぎ倒す荒っぽいファイターのイメージガ強いが、実はクレバーな防御技術を備えている。リゴンドーに似た長身サウスポーのゾラニ・テテ(南アフリカ)戦では、長いジャブを余裕を持ってかわしながら3ラウンドに右フックでダウンを奪い、左フックの連打でレフェリーストップによるTKO勝ちをしている。
この試合では、バックステップで相手のパンチを見切るテクニックも披露した。フックの強打に加え、接近戦で出す左右のショートアッパーにも威力がある。攻撃力ではベテランのキューバ人より上だろう。
カシメロはリング外でも荒っぽい言動が目立つ。何度も井上を挑発しているのは周知のとおり。今回のドーピング問題でも「大金が稼げる井上戦を優先したいんだ。ビビっているだけだ」とドネアを強烈にこき下ろした。大口を叩いておきながら、井上、ドネアとの対戦前に負けてしまえば、面目丸潰れ。プライドをかけて勝ちにいくだろう。
■オッズはリゴンドー有利だが、カシメロの攻撃力に期待
試合前のオッズは、リゴンドーが2対1でリードしている。元アマチュア王者が勝負に徹すれば、フィリピン人のパンチを交わし切るという見方だろう。キャリア後半のフロイド・メイウェザーがそうだったように、スリルに欠けた試合となり、オッズ通りに決まるかもしれない。
しかし、本欄はあえてカシメロのKOまたは、大差の判定勝ちを予想したい。すでに述べたように、カシメロの技術は高い評価に値する。中盤以降に距離を詰めて、短いアッパーから強いフックを当ててテクニシャンを攻略するとみる。
心強いのは、翌週に試合を行うマニー・パッキャオと激しい練習を積んでいるという情報だ。同国の英雄から得るものは大きいはずだ。ひとまわり成長したボクシングを展開してほしい。そして、何よりも井上VSカシメロを観てみたい。4団体統一戦の相手はリゴンドーよりカシメロがいい。
15日当日の中継/放送/配信等の視聴方法
日付 | 時間 | 放送・配信媒体 | 概要 |
---|---|---|---|
8/15(日) | 11:00~ | WOWOWライブ | TV生中継 |
8/15(日) | 11:00~ | WOWOWオンデマンド | ネット生中継 |
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著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。