【スポーツビジネスを読む】Strava三島英里シニア・カントリー・マネージャーに訊く 後編 「グロースの女王」が語る成長の3つの秘訣 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】Strava三島英里シニア・カントリー・マネージャーに訊く 後編 「グロースの女王」が語る成長の3つの秘訣

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【スポーツビジネスを読む】Strava三島英里シニア・カントリー・マネージャーに訊く 後編 「グロースの女王」が語る成長の3つの秘訣
【スポーツビジネスを読む】Strava三島英里シニア・カントリー・マネージャーに訊く 後編 「グロースの女王」が語る成長の3つの秘訣 全 1 枚 拡大写真

FacebookInstagramと世界に名だたるSNSの成長とともに歩んで来た三島さんをここでは「グロースの女王」と呼びたい。そして、相手が女王ともなれば、ずばりそのグロースの秘訣について訊ねたくなるのが人間心理というものだろう。ここでは、その秘訣について、3つに絞って回答を求める暴挙に出た。

すると三島さんは「大した秘訣でもない」と言わんばかりにさらっと答えをくれた。

1. プロダクト・マーケット・フィットどんなB to Cサービスでも、マーケットが求めている機能を提供すること。常識のように思えるが、実はプロダクトを優先するあまり、この観点を忘れてしまうアプリは山ほどある。Stravaも常にサイクリスト、ランナーが欲している機能を提供している。

2. ティッピングポイントとなる出来事を逃さない不可抗力のケースもあるが、こうした出来事を逃さず、ユーザーを獲得する。例えば、東日本大震災の際はインターネットしか使用できずその際、実名で安否確認可能なFacebookの需要が高まった。これを教訓に、災害時の「安否確認」機能が追加されたのも記憶に新しい。また、インスタは他SNSを芸能事務所などに管理されている芸能人などが、まさに本人として情報を発信。これが「本物」志向のユーザーを捉え、ブレイクのきっかけに。また、この戦略を有効活用した点も続伸の要因に。

3. いかにコミュニティを取り込み、リレーションシップを深めるかこちらはFacebookの場合は、エンジニアの尽力の賜物。ABテストの繰り返しによるテクノロジードリブンで獲得。一方でインスタは、プロダクト・リリース後、信頼できるコミュニティに意見をもらう、コミュニティ・フィードバックに重点を置いた。

こうした観点からStravaも「コミュニティ・ドリブン」でグロースを推し進めている。社としてもユーザーを認識し、コミュニティ・マネージャーなど中の人の顔を意識し、グロースを図る。Stravaではユーザーを「アスリート」と呼び、もちろん「アスリート・ファースト」を掲げている。「ビジネス・オーサムはアスリート・オーサム」という考え方で、いわゆる「中の人」も日常的にスポーツに取り組んでいるメンバーが多いのだとか。

インタビューを受ける三島英里さん 撮影:SPREAD編集部

「コミュニティ・ドリブン」の観点から、どんな施策が取られているのかを訊ねると「日本からのリクエストで、マップ上に駅を表示してもらえるようになりました」とのこと。アメリカ、Stravaがベースとする西海岸ではクルマ社会のため公共交通機関として鉄道を、またその駅を意識する機会は極めて少ない。よってマップ上に鉄道の駅は表示されていなかった。しかし、これはで日本のユーザーから「場所を確認しにくい」という声が挙がるのは当然。外資企業において、こうした国ごとの差異は「本国」ではなかなか理解されにくい傾向にある。

しかし、たまたま「(アメリカの)担当エンジニアがしばらくヨーロッパで仕事した経験があり、公共交通機関を使用していた過去もあって、すぐに理解してくれました。おかげで、駅がマップ上に反映される開発がスムーズに進められたのです。グローバルに展開しているので、様々な環境にいるユーザーがいる中、そのニーズに合わせたプロダクトが必要ですよね。私自身も(クルマ社会の)アトランタに住んでいた時はMARTA(マルタ=アトランタ市内の唯一の鉄道網)には一度しか乗ったことがなかったので、よく理解できるのですが(苦笑)」とアメリカ企業ならではのエピソードも語ってくれた。

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実は私自身、三島さんと同時期にアトランタに住んでおり、当初こそそのMARTAで通勤していたものの、クルマ購入後はすっかり使わなくなってしまった経験がある。日本と異なり世界には「鉄道網」が一般的でない国もある。

■アスリートと同じ「言語」でのコミュニケーションが大事

Strava入社までスポーツを主流とした業務を担当した経験のなかった三島さんに、スポーツ界ならでは苦労について訊くと「(Stravaの)主流はサイクリング、ランニングなんですが、アスリートと同じ言語を話すことが大事だと思いました。(入社してから)初めてフルマラソンを走ったり、ロードバイクを購入してサイクリングを体験してみたり、みんなと同じ目線で語れないといけませんよね」とのこと。どの業界でも同様だが、その世界ならではの言語は必須だ。

横浜マラソン疾走中の三島英里さん 写真:本人提供

そうした中で学んだ「言語」の一例を訊ねると「FTK」を挙げてくれた。FKTとは「Fastest Known Timeファステスト・ノウン・タイム」のこと。もとは、特定のトレイルコースを走った自身のGPSデータをFKT登録サイトに申請し、「最速」の称号を得るアクティビティを指す。新型コロナウイルスの余波により各レースが中止になり、FKTへの意識が促進され急速にポピュラーになった「言語」らしい。大会や競技団体などが認める公式記録である必要はなく、個人が独自に計測、公開しているケースがポピュラーだとか。「例えば、(アメリカ東部を南北に走るアパラチアン山脈をコースとした)アパラチアン・トレイルを最速で縦断したのは誰か……などがこのFKTで共有できるようになりました。また、Stravaにもこうした記録を残せる機能があるおかげで『上田瑠偉に挑戦』などという企画も可能になりました」と解説を加えてくれた。

上田瑠偉は駅伝の名門校、佐久長聖高校出身のトレイルランナー。大学時代にトレイルランニングと出会い、初出場のレースで大会新記録・優勝を飾り、以来、海外も含め様々なレースで記録を残す注目のアスリートだ。Stravaの機能のおかげで、こうした一流アスリートとも素人がバーチャルで競うことが可能になったわけだ。

上田瑠偉が全国に記録を残すプロジェクト、 「Japan F.K.T. Journey」の公式サイト

サイクリング界の「言語」としては、「さらに『エベレスティング(everesting)』もありますよね。これはロードバイクでエベレストと同じ標高を累積するまで1つの坂を繰り返し往復するアクティビティ。最先端の技術で楽しんでいる人は『いろんなことを思いつくものだなぁ』と思い知りました。逆に日本ではテクノロジーを理解してもらう点で、少しハードルが高いように思えます。ビジネスパートナーに『なんで海外では人気があるの』と聞かれますが『コネクテッド・フィットネス』、つまりフィットネスがすべてデジタルでつながるようになり、デバイスからデータをやりとりできるしくみ、その先にコミュニティがあり、パーソナル・データでコンペティションする……この良さ、コンセプトが理解されないケースがまだ多いようです」と日本固有のテクノロジーに対する保守的な目線に苦労も絶えないようだ。

■Stravaの今後のビジョンとは……

こうして三島さんの話に耳を傾けていると、Stravaが単なるアプリではなく、テクノロジー・カンパニー、データ・カンパニーである事実がよく理解できる。「Strava Metro」では、どこでどの時間帯に自転車のトラフィックが多いのかなどアクティビティとして収集したデータを、個人情報をマスキングした上で、自治体に提供、自転車レーンやサイクリングロードの整備に役立てている。このデータを活用し、ロンドンではクルマの入れない区画を拡張、「自転車の街」として生まれ変わりつつあるという。つまりは、ユーザーのアクティビティが、そのまま社会変革のためのデータとして利益還元されるエコ・システム構築に役立っているのだ。

さらに「(Stravaでは)毎年、『Year in Sports』を発表しています。1年のアクティビティのログを分析し発表する、アスリートのデータを保有するカンパニーとしての一つの取り組みです。こうしてトレンドを出すと、日本の特異性がわかります。サイクリングとランニングは、日本では海外ほどコミュニティ・スポーツではありません。ソーシャル性が付随していないのです。イギリスはランニング文化ができあがっていて、「紋」がある伝統的なランニングクラブまであります。ブラジルは『アセソリア(=アドバイザーの意)』と呼ばれるインフルエンサーがいて、アセソリアが率いる、貧富なく誰でも参加できるランニング・グループが存在します。日本はソロ活動の割合が多く、Strava上においても、フォロワーが極端に少ないのです」と、こちらも日本特有の自主鍛錬の文化がデータに反映されている。

また、日本人はその活動時間においても特異性が見られるという。「日本ではアクティビティとして朝早く、夜遅い。特に夜20時以降に集中しています。Stravaはアメリカではサンフランシスコ、イギリスはブリストルにオフィスがあるのですが、自転車置場もシャワー室もあり、ほとんどの社員が自転車通勤しています。アクティブ・トランスポート(この場合は移動とアクティビティを兼ねる意)の意識がとても高いです。また前職のFacebook本社では、キャンパス内にジムまで完備しています。ですから散歩しながらワン・オン・ワン・ミーティングが行われたり、ワーキング時間も広くアクティビティに活用されています」と日本のガラパゴス性についても指摘した。

サンフランシスコ本社の自転車ガレージ 写真:本人提供

日本の特異性という意味ではジェンダー問題で世界的に遅れをとり、女性が暮らしにくいとされる日本社会について、企業のトップとして、どう考えているのか、ズバリ聞いてみると「もちろん、日本にもジェンダー問題があるとは思っていますが、それは世界レベルでも問題だと考えています。来年からいよいよ女性のレースも開催される運びとなりましたが、あの『ツール・ド・フランス』も歴史的に長らく、男性のみでレースが行われてきました。また、レースにおいても賞金額を見れば男女の差は歴然ですし、グッズ面を振り返れば換えのリーダージャージが足りないとか、レースでの提供数が足りないなど、さまざまな不備に直面します」と、ジェンダー問題は必ずしも、日本だけに残された問題ではないという観点に及んだ。

最後に今後のStravaのビジョンについて聞いた。「スポーツをする上での大きな問題はモチベーションだと思っています。Stravaでは『People Keep, People Active』というスローガンがあり、人を動かすモチベーションになるのは人の力だと考えています。そして、そのモチベーションとなりうるツールを提供していくのが、Stravaです。StravaのAPIは全世界で6万社に活用されていますが、プラットフォームとしての成長=『コネクティッド』を図り、デバイスや運動環境に関係なく等しくStravaを活用してくれることで、その人々を繋いで行きます。またさらに、Strava Metroのようにそのデータを提供し活用していただくことで、社会への貢献を目指しています。そして、この2つが、スポーツをするモチベーションへも繋がっていくと信じています」。

スポーツをする」が「社会貢献」につながる。これまでの日本のスポーツ界にこうした発想はあっただろうか。

物腰が柔らかくたおやかでありながら、三島さんの中に「グロースの女王」の強い意志を見た思いがした。さて、StravaがFacebookやInstagramのように、日本人にとって欠かせないツールに成長するのか……密かに楽しみにしながら私自身、今日も都心移動のために自転車を漕ぐのだった。

◆【スポーツビジネスを読む】記事一覧

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◆ラグビー新リーグで世界一のクラブを目指す 静岡ブルーレヴズ山谷拓志代表取締役社長 前編 シーガルズで学んだ日本一の組織作り

著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

《SPREAD》

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