【全豪オープン】元世界1位マリー相手に大金星 ダニエル太郎に見た超攻撃的スタイルの完成 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【全豪オープン】元世界1位マリー相手に大金星 ダニエル太郎に見た超攻撃的スタイルの完成

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【全豪オープン】元世界1位マリー相手に大金星 ダニエル太郎に見た超攻撃的スタイルの完成
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1月20日、全豪オープン大会4日目、ダニエル太郎が2回戦で元世界ランキング1位アンディ・マリー(英国)を6-4、6-4、6-4のストレートで打ち破る大金星を上げた。ケガからの完全復活途上であるとは言え、ダニエルはタフな予選3戦を突破した上、元王者を撃破。自身初の四大大会3回戦進出と快進撃を続けている。

◆【動画】現地実況も「世界クラスのパフォーマンス」と大絶賛 ダニエル太郎が元世界1位アンディ・マリーを撃破した瞬間

■速い攻撃で先手を打ったダニエル

元から小顔なダニエルの頬がさらにシャープになったようにも見えた。

そのダニエルの向かいには、言わずと知れたテニス界の大スター、アンディ・マリーが立っていた。世界1位の輝きから一転、タフなツアー生活でケガに苦しみ、人工股関節の手術を受け、完全復活への道を歩んでいる最中だ。

この偉大な相手に対し日本の挑戦者は、ゲーム序盤から自身の意志を見せつけるかのように素早く動き、ボールが少しでも浅くなるとアタックを続けてはエースを奪った。ベースライン上から様子を見るかのようにショットを受け取っていたマリーにとっても、ダニエルのスタート・ダッシュは予想を越えたものだったかもしれない

マリーと言えばディープクロスへのショットの精度が高く、フォア・バック共にこの「ビッグX」の攻撃を使い相手の隙を狙って展開する。故に自分から先手を打ちにいくというよりよりは、ベースライン上で相手のペースを知ってから攻撃に転じることがベースにある。もちろん速攻の必要性を熟知しているが、ゲームの流れを読み、タイミングによってうまく使い分けながらカウンターでポイントを積むことが多い選手だ。

そんなマリーに対し、今回のダニエルはポイントの起点となるディープクロスを打たせないほどの速い攻撃で先手を打つことに成功していた。マリーが起点を作ろうとしても、早めにストレート展開を多用し、相手を走りまわさせてはネットでポイントを奪った。

■昨今のスタイルとも合致する方向性の転換

男子のトップレベルになると、相手から簡単にエースを奪うことは容易でない

エースを取りたくても、強靭なフィジカルにより簡単に返球され、仕方なくラリーになると見ていいだろう。そのレベルにも関わらずエースを奪えるほどに、ダニエルのタイミングとボールスピードは優れていた。なおかつ、ストロークで押しきれない場合も考え、プッシュした後には必ずネットで相手のボールを待ち構えた。

かつてはベースライン後方でフォアのスピンボールを多用し、粘り強いプレーがダニエルの持ち味だった。そのテニスで2018年にはイスタンブール・オープン(ATP250)で優勝、同年にキャリアハイの64位も記録し、ノバク・ジョコビッチ(スロバキア)をも破った過去がある。

ここまで培ってきたテニスから、変革を目指した理由は、昨今のアップテンポなテニス界のスタイルが大きく関係していることだろう。とは言え、要因は一つではないはず。日々の戦いの中で改善を重ね、自身の成長を見据え続けた結果、現在のアグレッシブなテニスに到達したと想像する。

実際に、現代のアップテンポなテニスは「クレー・キング」であるラファエル・ナダル(スペイン)のテニスにさえ変化をもたらしている。ナダルも年を追うごとに主戦場が、ベースラインに近づき、テンポを速め、攻撃するポイントとして増加傾向にあるのだ。それでもダニエルほどの変革は滅多に見られない。守備力の強いカウンタパンチャーのスタイルから、対極とも言えるアグレッシブ・ベースライナーに変化できる選手もそうはいない。

どの選手にとってもポイントの取り方やリズムの変更は、ささいな点でもゲームに及ぼす影響は大きいものだ。過去にディフェンスでペースを掴んでいたダニエルからすれば、今の自分は攻め急いでいると言ってもいいぐらいテンポのペースを上げている。

されど、あのマリーを相手に細かなステップを何度も踏み、一歩でも前に入れる場所を見逃すまいと躍動する彼を見ていると……現代テニスにはテンポを落とす方がリスクであり、攻めないことはチャンスを見逃し、素通りさせることになる……、そう言っていいほどダニエルの方向性には迷いがなかった。

■要所で光ったダニエルの我慢強さ

今大会、サービスゲームでは180キロ台のサーブから3本目の展開で押し込めるシーンが多く、この素早い仕掛けに元世界王者はパッシングさえ打てずに上に逃げるしかないほど。ダニエルは何度も豪快なスマッシュでポイントを取り、ガッツポーズを見せては会場を沸かせた。

第1セット先取を許したマリーは、ペースを取り戻すべくボールを深く送り、チャンスを待つ。時にはクロス・ストレートの展開のお手本を見せてくれるかのように、ボールを散らしダニエルの体力を奪った。だが、ダニエルはそれを阻止すべく第1セット同様、速攻のプレーを続けプレッシャーをかける。マリーは変わらない状況に、それ以上に攻撃的にならざるを得す、それがゆえにミスを重ねてはフラストレーションを溜めた。

試合の流れを譲らないまま迎えた第3セット、豊富な経験を持つマリーは僅かなチャンスを活かし先にブレークに成功、2-0とリードした、だが、引き離したいサービスゲームでアンフォースト・エラーを続けてしまい、隙を作ってしまった。その隙に割って入るかのように、ダニエルは再び先手を打つチャンスを伺い、時に我慢強くプレー、最後はバックのスーパーパッシングを決めて流れを引き戻した。

そこから互いに一歩も引かない展開が続くが、ここでもダニエルの勝負強さは際立っていた。2-3の40-40でもサービス後に3本目で押し切り、アドバンテージを握ってはワイドへのキックサーブ使い、マリーをステップインしてから4歩分も外にはじき出させポイントを奪った。

4-4となった第9ゲームは、高まる選手の緊張が伝わっていくように会場は静まりかえる。マリーのサービスエースから始まると、ファンは彼を鼓舞するかのように大声援を送った。だが次のポイントを13本のラリーの末にダニエルが取り返すと、続けてトリッキーなドロップショットを決め40-15のブレークポイントを手にする。ここでダニエルは少しナーバスになったか、バックのアプローチをネットに懸け表情をゆがめるが……2度目のブレークポイントでは攻撃スタイルから一転、粘り強さを発揮した結果、マリーは打ち急いでしまいバックをネットにかけた。

■大きな意味を持つ大金星

勝利への追い風はダニエルに吹き、迎えた5-4リードのサービング・フォー・ザ・マッチ。マリーの失速はぬぐえず1ポイント目でエラーを犯すと、ダニエルは淡々とポイントを積み重ね40-15のマッチポイントに辿り着く。そして一番の勝負所に選んだのはサーブ&ボレーだった。スライスでのワイドサーブにアンディーはバランスを崩し、ダニエルはオープンコートにバックボレーを沈ませ、元王者からの大金星に「やってみせたぞ!」と言わんばかりの表情で興奮を見せた。

終わってみればダニエルが放ったサービスエースは、マリーよりも5本も多い12本。最速では212キロを記録した。今回の勝因にサービスゲームの攻撃性の高さが光ったのは言うまでもない。

よく「トップ選手を相手に巡ってくるチャンスは1回」と言われる。それほど強者相手には掴んだチャンスを1本で取りきらねば、起死回生の逆転を許しかねない。しかし、ここで打ち勝ったダニエルの集中力は素晴らしいものだった。

そして元選手の立場からプレースタイルの大変革に対しては、相当に大きな決断を繰り返してきたと感じている。成長の過程に「目先の勝利より未来の大きな勝利」と言われることもあるが、プロとして仕事を続ける以上、生き残るには目先の勝利も重要な要素だ。そんな状況の中、ランキング120番以内をキープし、今回の大躍進に繋げた功績はとてつもなく大きい。

ダニエルの3回戦の相手は第11シードのヤニク・シナー(イタリア)だ。トップ10を相手にどこまで見せてくれるか、今から楽しみでしょうがない。試合は22日(土)に予定されている。

(C)Getty Images

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。

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