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島根スサノオマジック背番号3安藤誓哉。
今シーズン、アルバルク東京から島根へ、安藤の移籍が発表された際には多くのバスケットボールファンを驚かせた。だが、島根ではキャプテンとして、ここまでチームの中心として導いてきた。
島根スサノオマジックは、島根県松江市を本拠地とし、中国地方では初のプロバスケットボールチームとして2007年に設立。転機が訪れたのは2019年、バンダイナムコエンターテインメントが経営権を獲得し、現在の運営会社は株式会社バンダイナムコ島根スサノオマジックとなった。
そして今シーズン開幕前に大補強を敢行。安藤だけでなく同じく日本代表としても活躍、昨シーズンのMVPにも輝いた金丸晃輔をシーホース三河から獲得し大きな話題を集めた。さらに、オーストラリア代表のニック・ケイも加入、選手層に厚みを加えた積極的な補強でシーズン開幕を迎え注目を集めた。
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■今シーズンから島根スサノオマジックを牽引
これまで、Bリーグのファイナルに西地区のクラブが辿り着いたことはなく、東京、千葉、栃木など関東エリアに集まる強豪チームが日本一をかけて戦ってきた。だが今季、これまで西地区を牽引してきた琉球ゴールデンキングスがリーグ最高連勝記録を20にまで伸ばし、リーグ全体でも首位を走っている。その琉球を追うのが、西地区2位の島根。西地区がより盛り上がることでリーグそのものに均衡をもたらし、バスケ全体の底上げが見て取れるようになった。
3月19日、20日、そんな島根をアウェー富山市総合体育館で行われた富山グラウジーズとの連戦まで追った。島根は、主力選手リード・トラビスと金丸晃輔が欠場。試合終了後、安藤に話を聞くと「主力選手二人が出場できない中、バイウィーク明けから綺麗なゲーム、勝ち方はできていない。ただ勝ち切ると言うことが重要。今週末の富山戦も連勝できてよかった。後半、自分たちを信じ切れたことが勝因」と安堵の表情を見せていた。
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富山グラウジーズ戦に出場した安藤誓哉(C)SHIMANE SUSANOO MAGIC
立役者としてウィリアムス・ニカの名を挙げ、「インサイドの戦いを本当に頑張ってくれた。(富山の)ジョシュア・スミスをファウルアウトにさせるほどだった」と振り返った。スミスは大きな体を生かしてゴール下を支配している選手だ。ポール・ヘナレ・ヘッドコーチ(HC)は試合後に「スミスの対策が難しく頭を抱えた。リーグになかなか彼を止められる選手はいない。諦めずアジャストして最後は機能できた」とコメントしていた。
そんな試合の中で安藤は、GAME1では37分間出場し28得点とキャリアハイを更新する大活躍。そして翌GAME2では40分間のフル出場で21得点、富山にリードを許す展開の中で追い上げ、勝ち切ることができたのは安藤の活躍があったからだ。両日ともにチーム最多得点の活躍でもある。島根に身を置いた今、得点能力の高いポイントガード(PG)として、今シーズンの安藤はこれまでより一層伸び伸びとプレーをしている。
ヘナレHCはチームを牽引する安藤について「とても重要な選手。どんなスポーツ、どんなチームでもキャプテンの存在の大きさが最後には影響するものだ。物事をしっかり実行し結果が出せる、大きな存在だ」と評し、絶大な信頼を寄せている。
■移籍によりポイントガードとしてもレベルアップ
アルバルク東京では、安藤自身が「優秀なヘッドコーチ」と表現する、元・日本バスケットボール協会技術委員会アドバイザーを務めていたルカ・パヴィチェヴィッチHCの下でプレーをした。さらに「今回はまたポールというニュージーランド代表HCだった素晴らしいコーチに教えてもらえている」と自らの環境をとてもありがたく受け止めている。何より、パヴィチェヴィッチHCもヘナレHCも自身と同じPG出身の指導者であるため、安藤に大きな影響を与えている。
現在、ヘナレHCとの関係性は「オフコートだとフランクにジョークを言い合ったり、『フレンド』と言われ選手とコーチよりフランクな関係性」だというが、いざバスケットボールになると「PG出身者として技術的な面もアドバイスされるし、今の僕のフィーリングに対してどんどんやりなさい」と背中を押してもくれる存在となっている。
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島根スサノオマジックで活躍する安藤誓哉(C)SHIMANE SUSANOO MAGIC
東京時代には「まだ若かったから、PGマインドというものをしっかりと叩き込まれた。そのおかげで今の僕がある」ともちろん感謝も忘れない。「東京時代の学びがあるからこそ、島根でHCに求めるバスケットボールを体現できる。すごく充実している」と目を輝かせながら語ってくれた。新天地で新たな指揮官の信頼を勝ち得、よりバスケットボールを楽しんでいるようだった。
「昨シーズンよりハンドラーの回数も多く、シュート機会も多い。もちろん自由にやる場面が増えたというのもあるが、島根での役割が決まっていて、僕はハンドラーとしてクリエイトするという役割だと思っている。自由な分、もっと責任を背負う」と感じている。冒頭で、富山戦GAME1ではキャリアハイを更新したと述べたが、今シーズンになりキャリアハイの更新を続けている。得点力も増し自由に伸び伸びとプレーをしているのだが、安藤が語る通りそれだけではない。キャプテンとしても求められる役割としても担った責任感までもが程よく自身にプレッシャーを与えているのだ。「島根に来て、全てがまた新たな挑戦だという思いで今シーズン臨んでいる」とリスタートのシーズン。「責任をしっかりと負っていきたい」と力強く言い切る安藤の気持ちの強さを感じるとともに、より輝きを放つプレーの理由がわかった気がした。
今季は、西地区のチームがファイナルの舞台に立ち、シーズン王者に輝く可能性もありえる。「地区であまり考えたことはないが、ワイルドカードもあるし均等になることは盛り上がるしいいと思う」と安藤も語っていた。
2018-19シーズン、2019-20シーズンにはアルバルク東京のメンバーとしてBリーグ初の連覇達成に貢献した。3月20日に行われた富山グラウジーズ戦GAME2終了時点でチームは30勝10敗。西地区2位、全体では5位。チャンピオンシップ出場圏内に身を置く。安藤は過去の経験を踏まえ、今どんなことを考えチームに伝えていきたいと思っているのだろうか。「まずは準備をすること。そして何より覚悟が大事」だ。「正直、優勝を目指すと言ってもシーズン最初は『厳しいのでは……』という反応ももちろんあった。しかし今は、後半戦この順位に付けている。チャンピオンシップが見えている」という。チャンピオンシップに出場をしたら「優勝を目指してやるしかない」ということを、「チームメートがどれだけ同じ感覚で持ち、目指していけるか」だと強調した。
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チームを牽引する安藤誓哉(C)SHIMANE SUSANOO MAGIC
安藤は日々の試合と向き合いながら、優勝への覚悟を持って仲間とも向き合い続ける。「今年は今年のチャンピオンシップがある。新天地での挑戦。キャプテンとしてもポイントガードとしても先頭に立ってエナジーを出していきたい。仲間と共有していきたい」と自身の覚悟を最後に語った。
東京という日本の中心に位置するチームから島根へ身を移した安藤だが、島根では「ゆっくり生活している。過ごしやすい」と笑顔で語る姿から充実した日々と様子を伺い知ることもできた。リーグも終盤戦、チャンピオンシップを見据え安藤がこの先のステージでチームをどのように牽引していくのか注目したい。
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■著者プロフィール
木村英里(きむら・えり)●フリーアナウンサー、バスケットボール専門のWEBマガジン『balltrip MAGAZINE』副編集長
テレビ静岡・WOWOWを経てフリーアナウンサーに。現在は、ラジオDJ、司会、ナレーション、ライターとしても活動中。WOWOWアナウンサー時代、2014年には錦織圭選手全米オープン準優勝を現地から生中継。他NBA、リーガエスパニョーラ、EURO2012、全英オープンテニス、全米オープンテニスなどを担当。