【甲子園】なぜ前年比「36%」も失策が増加したのか 東京六大学公式記録員としての考察 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【甲子園】なぜ前年比「36%」も失策が増加したのか 東京六大学公式記録員としての考察

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【甲子園】なぜ前年比「36%」も失策が増加したのか 東京六大学公式記録員としての考察
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第104回の夏の甲子園終了直後、主催者の新聞に「大会合計失策が前年の100から136に増えた」という記事が目に留まった。どんな分野でも前年比36%の増加は大変なことである。

これには原因が考えられる。

今年の3年生はコロナ禍の真っただ中に入学し、守備練習が不足していたのではないかということだ。もちろん指導者のもとでメンタル・トレーニングに励んだり、作戦やフォーメーションを学んだり、バットを振ったり、ウェイト・トレーニングを積んだり、できる限りのことをしたのだろう。野球にはいずれも重要なことである。

それでもやはり守備はグラウンドでノックやフリー打撃で打球を追いかけないと向上は難しい。毎日毎日、入学してから夏まで、数えきれないほどのノックを受けて、打撃練習や練習試合で守備について、強い打球や嫌な打球への対処をからだで会得し歴代の野球部員は甲子園で守ってきたはずである。

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■公式記録員の「ジャッジ」も一因か

しかし、それだけが理由で36%もエラーが増えるものだろうか。

実は、私は自身の立場も鑑みつつ、公式記録員のジャッジが打者に厳しくなったのではないかと感じているのである。136個全部のエラーを見たわけではないが、中継のアナウンサーが「あ、記録はエラーとなりましたね」と少し意外な声を発するようなジャッジが今年は目立ったような気がする。

去年までは、「これが安打では投手がかわいそうだ」と思うようなジャッジが多かった。プロ野球や大リーグを見ていると、痛烈な打球を野手がはじいてもEのランプ(エラーの表示)がつくことがある。大リーグではジャッジに不満をもった選手が公式記録員に抗議し、その結果後日訂正されることがある。プロ野球でも抗議を受けてかどうかはわからないが、翌日以降に訂正されるのを見かけるようになった。

失策が安打に変われば打者と当該野手は救われる。打者の安打も野手の守備率も上がるが、投手の被安打は増え、得点に絡んだ場合は自責点も増える。そして防御率が悪化する。つまり打者が抗議して失策から安打に変わることは自分と相手の野手にも利益になる。

一方、失策と判定された野手が「あれは強襲安打にしてほしい」と記録員に抗議をしてそれを認めた場合、相手の打者も喜ぶのだが収まらないのは味方の投手である。大リーグではこういうことが実際に起き「仲間の中に自分の防御率を悪化させようと動いたやつがいる」ということになってチーム内がぎくしゃくした例もある。本人と敵チームを利するが自軍の投手には不利益となる抗議ということになる。

それにしても大リーグの「厳しい」ジャッジを見たうえで、高校野球のちょっと難しい打球は全部安打というシーンを見ると、「自分たちはレベルの低い野球をやっているので、仕方ないのですよ」と高校野球界全体で言っているように私には見えていた。

実は大学野球もこの点は大リーグやプロ野球にくらべるとエラーがつきにくい印象があった。

「大学野球は高校並みでして、プロよりレベルは下ですから」と言っているようなものだと思っていた。まして東京六大学では防御率1位投手を毎シーズン表彰しているのである。「あの打球が安打とされたばっかりに防御率1位の栄誉を永遠に得られずに終わってしまった」という思いを残す場面もありはしないかと心配したものだった。

私が東京六大学野球連盟の公式記録員に就任したのは昨春のこと。そのときに渡された『野球スコアのつけ方』(全日本野球協会アマチュア野球規則委員会責任編集・ベースボール・マガジン社刊)によると「安打か失策か疑義のあるときは、常に打者に有利な判定を与える」という記述がある。それならば仕方ないと思わざるをえなかった。

リーグ戦ではマニュアルをもちろん守っているものの、やはり投手のことは気になってしまう。あれくらい、東京六大学野球のレギュラー野手なら捕ってくれないと困る、と監督も投手も思っているはずである。

高校野球は投手の防御率を表彰しているわけではないし、大会の個人記録に関しても自責点や防御率に関するものを見たことがない。それなら、「甲子園でヒットを打った」という一生の思い出として、多少打者有利の判定でも、その結果相手投手に傷がつくわけではなく、それでよいようにも思う。

東京六大学の秋季リーグが始まる。4年生になって初登板の投手がマウンドに登ってくることもあるし、最初で最後の打席が与えられるという場面も秋は多いもの。通算無安打の代打が出てくると記録員も気になるのが人情。できるだけ記録員を迷わせるような打球を打たないでほしいと願いながら打球を追うのである。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

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