レジェンドたちも涙、5世代を生き抜いたロジャー・フェデラー引退の瞬間 「何世代にもわたってプレーしたかった」  | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

レジェンドたちも涙、5世代を生き抜いたロジャー・フェデラー引退の瞬間 「何世代にもわたってプレーしたかった」 

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レジェンドたちも涙、5世代を生き抜いたロジャー・フェデラー引退の瞬間 「何世代にもわたってプレーしたかった」 
レジェンドたちも涙、5世代を生き抜いたロジャー・フェデラー引退の瞬間 「何世代にもわたってプレーしたかった」  全 1 枚 拡大写真

ロンドンの夜、ジャック・ソックが打ち抜いたフォアハンドが、四半世紀におよぶロジャー・フェデラーの競技生活に終止符を打った。

今この瞬間から、フェデラーは選手としてではない日々を歩き出している。

約1年3カ月ぶりに試合に戻ってきたスイスのスーパースターは、一回りシャープになった身体に、ここ数年悩まされた右ひざを補助するテーピングは一切ない。滑らかな動きで華麗なボレーを決めれば「ゴージャス」と称賛され、思ったようにプレーできると笑みをこぼした。同じコートには盟友であり最高のライバルであるラファエル・ナダル。そして現在、世界の最先端をいくトッププレーヤー達に囲まれ、41歳のレジェンドはコートを去った。

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■23歳でメジャータイトルを獲得 その後に生まれたビッグ4

思い返せば2003年の初夏、フェデラーはテニスの聖地ウィンブルドンで初のメジャータイトルに輝いた。肩くらいまでの髪を結び、力強くコートを蹴っては豪快なストロークを左右に散らす。大きく一歩を踏みだしネット付近から叩きつけるオーバヘッドは、コートに穴をあけてしまいそうなほど。「20代の頃は、みんなボコボコにしてやるぞ。みたいな感じでギラギラしていたんだ」と、そこにはまだ少し腕白なフェデラーがいた。

当時、男子テニスを牽引していたのは同い年のレイトン・ヒューイット(オーストラリア)や、ファン・カルロス・フェレーロ(スペイン)、そしてアンディ・ロディック(アメリカ)やマラト・サフィン(ロシア)。ニューボールズ世代と呼ばれていたメンツと共に先頭を競い合っていた。このなかを掻き分け2004年には全豪を制覇。その頃から意識的に長年プレーすることに決断を下したとも言われている。

フェデラーによると「テニスにおける一世代は10年、15年と続かない。5年おきに次の世代が来るんだよ」と時代の移り変わりの速さを説いてきた。この話からすると彼は実に5世代にわたってテニスの歴史に歩みを残す。

「ずっと何世代にもわたってプレーするのは楽しいはずだと思っていたんだ。今はもう新しい選手が出てきていて、若い人たちに僕みたいな年長者とプレーするチャンスをあげたいなって思っていた」

その想いがこの伝説の序章になったのか、2004年の全豪後、No.1へと上り詰めると310週にわたって王座をキープ。その背を追いかけるように現れたのが、今回レーバーカップで同じコートに立ったラファエル・ナダルであった。その年のマイアミ・オープンから始まった戦いは40回の死闘を繰り広げ、時には「世紀の一戦」と呼ばれ、時にはスポーツを超えたライバル関係に高貴さを感じられた。

この二人の関係に、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)とアンディー・マリー(イギリス)の台頭が加わり2012年以降は本格的にビッグ4時代に突入したと言われている。今では4人合わせると66個のメジャータイトルを持つ、正に黄金世代だった。

■「ロジャーは僕のアイドルの一人」とアルカラス

史上最高のオールラウンダーは、史上最高のライバルたちのもと、作り上げられる。そのメンバーがそろって戦うレーバーカップに、多くのファンが感傷的になり、若い選手にとっては夢の時間となった。

「80~90年代ごろは、お互いを憎み合っている人もいたと聞いた。僕がツアーに出始めた頃、ロッカールームはすでに和やかな雰囲気だったから、僕はそれを維持しただけだよ」

最後までファン・サービスを怠らないフェデラー (C) Getty Images for Laver Cup

その言葉とおり、彼は常に若手がツアーを楽しめているかを気遣い、よく自ら話しかけたりもするそうだ。そして彼を憧れにプレーしてきた選手たちに対しては、どんな時でも快く接していたとも聞く。

世界2位のキャスパー・ルード(ノルウェー)は「自分がジュニア時代に活躍していた4人の偉大な選手たちと今年は一緒だ。すごく光栄だし彼らの前だと多分ちょっと緊張するだろうね」と無邪気さを隠さない。普段のツアーとは違い「フェデラーとナダルが1ポイントずつ勝負した方がいいとアドバイスをくれるんだけど、やっぱりあの二人が両サイドを固めるなんてシュールだね」とチェンジコートの際にアドバイスをもらえるレーバーカップならではの利点を味わっている。

マッテオ・ベレッティーニ(イタリア)は「ロッカールームでフェデラーはとても良い人だよ。彼はアリシアムとの試合についてどう思ったのか話してくれて、次の試合ためにとても役にたったからね」と元王者から貴重な助言を得た。

つい先日、19歳で全米を優勝し世界No.1となったカルロス・アルカラス(スペイン)は、奇しくもフェデラーがウィンブルドン初制覇をする2カ月前に、ロンドンから離れた1997キロ離れたスペイン南部で誕生した。今は、フェデラーの若き時代を共にしたファン・カルロス・フェレーロを師事し、現在地に到達している。レーバーカップにはハードなスケジュールを理由に出場しなかったが「ロジャーは僕のアイドルの一人であり、インスピレーションの源です」とメッセージを送った

また全米の準々決勝後には、フェデラーにナダル、ジョコビッチの3人が「ベスト」であり続けることに対し、ネクストジェネレーションとして育ってきた自分たちの世代が「現在」であり「未来」であることを公言している。これまでにレジェンドとの対戦は無かったが、フェデラーはアルカラスについて「この1年で彼がやってきたことを見てきたよ。彼が成長するのは見ていて楽しい。間違いなくスター選手になるだろうね」と太鼓判を押している。

■最高の幕引き

現在のアルカラスと同じくフェデラーが19歳の時、ウィンブルドン4回戦でピート・サンプラスを破り、世界に名を轟かした。黄金時代の先には膝の怪我という試練を乗り越え、2017年に全豪で復活優勝。選択肢の多さから唯一無二の美しさと呼ばれたロジャー・フェデラーのテニスが、現代の若手たちに負け越す日も…彼にとっては悪い日とは言えなかったような気がする。そして今、あまりにも多くの思い出が残るロンドンで最後のお別れを伝えた。

「本当にこの旅は楽しかったです。チームメートも家族もいて、これ以上の幸せはありません」

誰よりもNo.1の孤独を知るはずのキング・ロジャー。しかし最後は会場だけでなく世界のテニスファンが涙を流し、彼を称える素晴らしい瞬間となった。これがテニスの5世代を生きたフェデラーが望んだ最高の幕引き。最後まで美しく、そしてこれからもテニスというスポーツを愛し続けてくれるだろう。

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。

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