
ソフトバンクがスポンサーをつとめるバスケットボールのBリーグ、バスケ男子日本代表、プロダンスのDリーグでは、最新のテクノロジーを駆使したソリューションの提供が目立つ。
◆ソフトバンクのスポーツ・ソリューションを牽引するサービス企画本部・原田賢悟本部長 前編 求人誌『B-ing』から始まった携帯電話を巡る旅
■Bリーグの人気醸成に取り組む
5G本格稼働を翌年に控えた2019年のバスケ日本代表戦では、5Gネットワークを活用した新たなスポーツ観戦を創出した。VR技術やAR技術、高圧縮・リアルタイム映像伝送技術などを活用、4K大画面による迫力映像を中心に据えつつ、臨場感を生み出すことに成功した。また、バスケ高校日本一を決める最高峰の大会であるウインターカップにおいてはAI技術を活用し、ライブ動画から選手位置情報を可視化するなど、スポーツ界における新たな観戦スタイルに向けてのチャレンジを行っている。
また、コロナ禍にあった2021年Bリーグ開幕戦では、沖縄アリーナにて顔認証を活用し、空港からの交通や館内への入退場、フード・ドリンクの提供など、手ぶらで観戦ができる体験も提供し、スポーツの新しい観戦方法に向けても準備を進めている。
こうした新体感の提供には、バスケというコンテンツが影響している。Bリーグがスタートしたのは2016年。野球、サッカーに次ぐ人気スポーツと言っても、プロとしての歴史はない。よってスポンサー企業としても、バスケットボールの隆盛、Bリーグの人気醸成は、これから取り組むべきテーマだった。
これについてソフトバンク株式会社サービス企画本部・原田賢悟本部長は「Bリーグ・スポンサーの一員として、Bリーグの盛り上がりに貢献できるよう、その時世に合わせた最新のテクノロジーを次から次に提供して、メディアでの露出、スポーツ面だけではなく、経済面などでも取り上げていただけるようにしていく事が重要と考えているし、バスケットと最新テクノロジーの相性は非常に良いと感じている」とテクノロジーとバスケの相性の良さをうまく活用して、スポーツ面以外での宣伝効果を見込んでいることを明かしている。
日常生活においてまだまだ5Gの恩恵を受けていると体感する機会は少ない。しかし2020年に実用化された5Gを使用し、新しいソリューションを作り上げていく作業は、各通信会社にとっては大きな命題だった。
大容量低遅延という特性を持つ5Gについて、ソフトバンクはライブ配信と相性が良いと踏み、正式ローンチに向け他通信会社の例に漏れず社内での各種研究は進めていた。ここで、やはりグループ内に福岡ソフトバンク・ホークスというスポーツの人気コンテンツを保有していた利点は大きく、「まずはスポーツの新しい見せ方から入ってみよう」という方針が決まったのは自然な流れだろう。

スポーツ界における新たな観戦スタイルに向けてのチャレンジを語る原田本部長 撮影:SPREAD編集部
「大容量の映像を制作すると、どうしても“箱物”にカメラを設置する必要があります。5Gの実験という点でも、幸いPayPayドームを自社で持っていますから、バスケの体育館のような足かせもありません。実証実験には助かりました」とそのアドバンテージを認める。
2017年、ホークス対横浜DeNAベイスターズの日本シリーズ第2戦7回裏一死満塁の場面、ソフトバンクの中村晃が放ったレフト前ヒットでホームに飛び込んだ2塁ランナー今宮健太の判定はアウト。しかし、リプレー検証の結果、セーフとなる。この時、セーフが明らかになった映像は天井に設置されたカメラによる360度の自由視点映像だった。野球好きなら、記憶している方も多いだろう。
【実際の映像】
■「わくわく感の醸成が目標」
これについて原田さんは「あの時は、実証実験的な形でした。しかし、反響が良かったこともあり2020年の5G本格導入に向け、自由視点用カメラを常設で60台設置しました。球場中の壁という壁に穴を開けました。他の球場じゃあ、ぜったいに許されないだろうなぁ」と笑い飛ばした。しかし、もしこうした手法により、すべての球場で自由視点映像が見られるようになれば、スポーツの見せ方そのものが劇的に変わるに違いない。「こうした形で、画像解析やVRの実験ができたのは大きかった。使えそうな技術は、バスケでも試してみようという流れになっています」とその可能性をも示唆した。
「現在は“あるもの”をただ見せるだけでは満足をしない時代になっています。常に最新のテクノロジーを提供し、わくわく感や驚きを作り出さないといけない。そのわくわく感を醸成するのが本部としてひとつの目標です。
今年度提供を開始したメタバース空間の「バーチャルPayPayドーム」も、ただのバーチャル空間を作るのではなく、リアルとバーチャルを重ね合わせたものを提供しています。中でも「バーチャル投球体験」では試合当日のピッチャーの投球動画をリアルタイムにAI解析し、メタバース空間上にAI解析したボールをほぼリアルタイムにオブジェクト化し軌道や球速を体感できるように再現しています。いずれは投球だけでなく、試合全体(選手)をバーチャル空間で体験できるような時代も来るかもしれません」とスポーツ・ファンにとっては夢のようなメタバースの将来を見つめる。

バーチャルPayPayドームで千賀滉大の「お化けフォーク」を体感できる日は来るのか (C)ソフトバンク
最後に今後の原田さんのビジョンについて尋ねると「5Gをどう使うかという本部内の最初の会議で『スターウォーズの世界を作りにいくぞ』とぶちまけたんです。当時、私はまだ5Gも理解してなかったんですけども、メンバーがみんな『この人何を言ってるんだ…』みたいな顔で私を見てました」と夢を語った。
ジョージ・ルーカスのSFファンタジー映画『スターウォーズ』では、エピソードIV(1978年日本公開)から劇中、ホログラム式のビデオ・メッセージやホログラム通信機が頻繁に活用されている。この世界感を日常にもたらすと、原田さんは打ち出しているのだ。
「ヨーダがホログラムで登場するように、居酒屋やスポーツバーのテーブル上に、Bリーグの映像が登場したら楽しいじゃないですか。そんな世界を作りに行くんです。最終形はそこ。そして、それがヘッドギアのようなデバイスにより実現されるのではなく、裸眼で体験できるものを目指したい。そんな技術は、まだ世の中のどこにもない。ヘッドギアがあるとどうしても視界がふさがれる。視界がふさがれるのは、つらいですよね。また、ヘッドギアを装着するのとしないのでは、人の動きもまったく異なります。理想は裸眼、スターウォーズの世界。ずっと言い続けてるんで、うちのメンバーからは『そんなのできるわけない、バカだな』と思われているかも」と明るく笑った。
「正直、これから何が流行るかわからない世の中になっていると思います。ですから、最先端技術については常に注視しておく必要があります。大企業ばかりではなく、スタートアップの持つ新しいテクノロジーも研究する必要があります」と現状を冷静に見つめる。こう語る理由には、日本の携帯電話業界が犯した手痛い失敗がある。日本はスマートフォンで遅れを取り、日本メーカーがまったく参入できない市場に甘んじる現状を生み出した。
「当時、移動機メーカーとの携帯電話の販売企画・調達の担当をしていまして、もちろん発売前にはiPhoneがリリースされることなどお話はできませんでしたが、発売後も『あんな板チョコみたいの誰が使うの』との声も上がりました。もしかしたら、あの時点で日本製のスマホOSを開発していたらiPhoneに並ぶものが作れたかもしれません」。時代の趨勢を見誤ったあまりにも大きな実例だ。
「やはりさまざまな技術に賭けておかなければいけません。そして、その中からどれだけ成功事例が作れるか命題です」、ビジョナリストらしい原田さんの言葉に耳を傾けていると、近い将来『スターウォーズ』が現実とされるものと想像してしまう。
学生時代からバレーボールに真剣に取り組んでいた原田さんは今でも週末に自身でプレー、また学生の指導を行っている。「個人的にはバスケよりもバレーボールが好きなんですけどね」と吐露するお茶目な点も、部下を魅了し思い描いた世界観を具現化するために、必要な素養なのかもしれない。
「スターウォーズの世界」、楽しみに待ちたい。
◆【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 前編 「攻めのプレーが未来を変える」
◆【スポーツビジネスを読む】公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ島田慎二チェアマン 前編 「なんでやねん」からの代表理事CEO就任
著者プロフィール
松永裕司●Stats Perform Vice President
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoftと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist。