【ラ・リーガ】ビジャレアルCF・佐伯夕利子さん 後編 日本サッカー界に突きつけられる課題とスペインの環境から見えたリアル「少数で物事は変わらない」 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【ラ・リーガ】ビジャレアルCF・佐伯夕利子さん 後編 日本サッカー界に突きつけられる課題とスペインの環境から見えたリアル「少数で物事は変わらない」

スポーツ 選手
【ラ・リーガ】ビジャレアルCF・佐伯夕利子さん 後編 日本サッカー界に突きつけられる課題とスペインの環境から見えたリアル「少数で物事は変わらない」
【ラ・リーガ】ビジャレアルCF・佐伯夕利子さん 後編 日本サッカー界に突きつけられる課題とスペインの環境から見えたリアル「少数で物事は変わらない」 全 1 枚 拡大写真

前編ではビジャレアルCFを中心としたラ・リーガのクラブについて話を伺ったが、30年以上にわたりスペインで過ごしてきた佐伯夕利子さんから見える日本サッカー界の環境はどう異なるのか。そして日本の将来はどうなのか。

2018年から4年間にわたりJリーグの理事(2018年~特任理事、2020年~常勤理事)も務めてきた佐伯さんに、指導者目線から見た日本のサッカーの現在地とこれからについて、スペインの環境を踏まえながら聞いた。

◆ビジャレアルCF・佐伯夕利子さん 前編 人口5万人の“田舎街”にサッカークラブが根付く理由「フットボールだけでは得られないもの」

■「包括的な環境」の大切さ

日本人選手とスペイン人選手の違いとは――。

この疑問に対しての答えはひとつではないだろうが、日本で頻繁に用いられるのが「個人戦術」という言葉。パスやトラップ、シュートといったサッカーにおける個人技術をベースに、試合の局面において、攻撃時のマークを外す動きや、守備時のポジショニング、プレスのかけ方など…。

各々の判断力や認知力が求められる一つひとつの質がスペイン人選手は長けており、効果的なプレーができるという見方がされる。

この概念について佐伯さんは、「日本のサッカー界って言葉を作るのが好きですよね。私の中で漢字は読めるし、言葉もなんとなく理解できるんですが、しっくりイメージが湧かなくて」と前置きしつつ、スペイン人選手は日ごろから「包括的な環境」に身をおいていることが両国の差として大きいと指摘する。

■変化してきたスポーツの視聴環境

「日本はフットボールを包括的に理解する環境に身をおくことが提供されていない中で、部分的に与えられているイメージはあります。

フットボールというのはお父さんやおじいちゃん、おじさんやおばさん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、周りの大人たちが、『今の監督はこうだ!』『監督の交代ミスだ!』と、話しているものを理解していくわけじゃないですか。そこに“学習”が生まれる。その学習機会というものがやはりこちら(スペイン)の子の方が多様であり豊かであると思います」。

佐伯さんは、サッカーの世界で包括的な環境に身をおくために、昭和期に家族で1つのテーブルを囲み、一家だんらんしていたような「雑談力が高い場所」の重要性を説く。

これは日本、スペインも同様の課題だが、現代はテレビでのスポーツ中継が減少し、サブスクリプションサービスやSNSで「好きなものを好きな時だけ見る」という環境に変わってきた。

子どもたちがアクセスしたい情報に最短距離でリーチできる反面、物事を限定的にみる習慣がつき、人々がサッカーを深く、広く、多様に理解する行為に制限がかかるリスクを伴うと警鐘を鳴らす。

■「外に出なさい」と言い続けたい

では、長年スペインで活躍してきた佐伯さんのように、日本人が海外の環境に日常的に身をおいて、そのノウハウを日本に還元することで、多様にサッカーを養う力を身につけられないか。

この問いに対して佐伯さんは、海外に出ることの重要性を説きつつも、これまでの日本で築かれてきた慣習を大きく変えるのは簡単な作業ではないと語る。

「海外に出ることはとても貴重なことだと私は思いますが、受け取る側にもよると思うので、『出る。いた。住んでいる』はイコール『知っている。分かる。優秀』ではない。ただ、ひとつ別の視点が生まれるというのは人間としてとても大事なことで、若者たちには『外に出なさい』とは言い続けたいと思います。

ただ、そのために少数の人たちが大多数の日本のスタンダードの中に入ってなんとかしようとしても、物事は変わらない。これまで、例えば(イビチャ・)オシムさんのような優秀な海外の指導者たちが日本に招聘されてやってきましたが、日本のサッカー界は大きくは変わってないわけです。これはなぜかというと、やはり少数派で何かをできるわけがないということなんです」。

選手に指示をする佐伯夕利子さん 写真:本人提供

■決定的な違いとなる「場」の少なさ

また、2018年に特任理事に就任し、2020年からは常勤理事としてJリーグに携わってきた佐伯さんは今の日本の問題点について「場」がないことも挙げ、プレーするための環境の少なさがスペインとの決定的な違いだと感じたという。

「(日本は)これまで30年以上成長してきたけど、この先で伸び悩んでいる理由はここにもある気はします。(スペインは)例えば400人くらいしか人口がない村でもサッカー場が必ずあるんです。

街づくりの設計で私がいつも言うのは、教会ですね。あとは昔でいう意見交換ができる、テラスやバルが立ち並ぶ中央広場のような空間。それから演劇、歌劇を行うことができる劇場。そして闘牛場があってのサッカー場。この5つは必ずあるんです。サッカー場が必ずあるのがスペインは武器だなと思います」。

多様な発想を生み出すための包括的な環境と、フットボールに親しむためのスペースの少なさ。佐伯さんの話から日本のサッカー界だけでなく、スポーツ界全体にもつながるような現状の課題が浮き彫りになった。

これはそれぞれの国がおかれた現在の環境や、これまでの背景が異なる中で、単純に比べられることではない。それでも、これから日本のサッカー界が発展、成長していくためにこれらのテーマがついて回るのもまた事実である。

この事実を受け入れたうえで、サッカーやスポーツに関わる人々がどう課題と向き合っていくのか。一筋縄ではいかないものとして、問題が突きつけられている。

◆【スポーツビジネスを読む】公益社団法人日本プロサッカーリーグ佐伯夕利子・元理事 前編 「サッカーで生きる」と決意するまで

◆【スポーツビジネスを読む】公益社団法人日本プロサッカーリーグ佐伯夕利子・元理事 中編 教育からスポーツまで根付くパワハラを正せ! 

◆【スポーツビジネスを読む】公益社団法人日本プロサッカーリーグ佐伯夕利子・元理事 後編 「日本は日本のやり方がある」とする逃げ癖を直せ!

取材・文●井本佳孝(SPREAD編集部)

《SPREAD》

≪関連記事≫
≫貴重な水着ショットも披露!「もはや高校生には見えない」大人っぽい池江璃花子、沖縄・石垣島の海を満喫

≫ケンブリッジ飛鳥と滝沢カレンが似てる?リオ五輪時から密かに話題だった

≫レアル所属・中井卓大ってどんな選手?…「リアルキャプテン翼」と呼ばれた少年時代