前日の第9戦で2連連続のチャンピオンを決めた野尻智紀（チーム無限）が、続く第10戦に向け放ったコメントが「これで明日は優勝だけを狙える」だった。
今季ポールを5度獲っていながら勝利は1度のみに留まっていた野尻のその言葉は「タイトルのことを考えずに優勝だけを狙ったレースをすれば、もっと勝利数は多かったはず」ともとれる。その自信というか自己評価は、正しかった。その第10戦、前日同様に予選でポールを奪取すると、レースでも2位以下を全く寄せつけず、鮮やかにポール・トゥ・ウィンを決めた。
◆最終戦を待たずして野尻智紀がドライバーズタイトル2連覇達成
■3連覇がかかる来シーズン
レースは最終戦ということで序盤から激しいバトルが各ポジションで繰り広げられる展開となったが、トップの野尻だけは終始安泰。12周目にセーフティカーが出たことで2位との差は一旦なくなるも、リスタートすると2～3周のうちに再びセーフティマージンを築いた。スタート及びリスタート後のラップタイムをよく見ると1周目、2周目が驚異的に速い。スタートダッシュで4～5秒のギャップをつくり、その後ペースをコントロールしタイヤをセーブするという作戦だったようだが、その理想の実現は2位以下も速さが拮抗しているスーパーフォーミュラでは結構難しい。野尻はそれを今回、完璧にやり遂げたのだ。
悲惨だった金曜日の専有走行後、大改造を施し劇的に改善されたというクルマは、前日の第9戦でもおそらく第10戦同様のポテンシャルがあった。ピットインが1周早かったチームメートの笹原右京にタイヤが温まり切っていないアウトラップでオーバーテイクを許した後、野尻が本気で逆転しようと思えばその可能性はかなり高かったと思われる。それでもドライバータイトル、チームタイトルの確定を優先した。そのジレンマも、これで晴らされた。
「これが野尻の本当の姿」。優勝記者会見でチーム無限の田中洋克監督が、最初に口にした言葉だ。
初めてディフェンディング・チャンピオンとして挑んだ今シーズン、タイヤが変更になったことで富士スピードウェイでの開幕戦では不安を抱えていたという。だが今シーズンの野尻の速さをずっと後押ししてきたチームのリカバリー力により、翌日の第2戦ではポール・トゥ・ウィン。ランキングトップに立った野尻の戦いは、ここから2連覇達成への戦いとなった。その結果が以降2位3回、3位3回、4位2回、予選ポイントとあわせ全てが二桁ポイント獲得という、第9戦までの安定した強さだった。
スーパーフォーミュラの前身にあたるフォーミュラニッポン時代に4度のタイトルを獲得している本山哲が当時「シーズン中には必ず、1度か2度ハマってしまうことがある。それは想定内。だから常に、ひとつでも前を目指すレースをする」というようなことを、確か口にしていた。
実際にタイトルを獲った1998年と2001年は、3勝、4勝した一方でともに3度のリタイアを喫している。観る側にとってどちらが魅力的なチャンピオンなのかと聞かれると難しいが、優勝を逃した戦いでも必ずどこかに輝くシーンがあった野尻は見応えがあったし、他のチャンピオンにはない“強さ”を感じた。来シーズンも野尻がその強さを発揮するのか、それとも違った強さを持つ新チャンピオンが誕生するのか、来季の開幕が今から待ち遠しい。
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著者プロフィール
前田利幸（まえだとしゆき）●モータースポーツ・ライター
2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT（日刊現代出版）」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。
