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22日から4日間、千葉県のカメリアヒルズカントリークラブ(6650ヤード、パー72)でアース・モンダミンカップが開催される。賞金総額は3億円。国内ツアー最高額となる優勝賞金5400万円を獲得するのは誰なのだろうか。
本命は先週のニチレイレディスで優勝し、最近の5試合で3勝をあげている山下美夢有。7週連続でトップ10に入っており、今季もメルセデスランキング、賞金ランキングともにトップを走っている昨季の年間女王は、今週もあたり前のように優勝争いに加わるのではないか。
アース・モンダミンカップは、山下にとってプロデビュー戦で思い出深い大会。昨年は初日首位に立ちながら、最終的には4位で終えた、悔しさが残る大会でもある。
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■飛距離58位で平均バーディ数1位
山下は身長が150センチと小柄で飛距離が出る方ではない。今季(6月19日時点)のドライビングディスタンスは235.35ヤードで58位となっている。
今季のドライビングディスタンス上位選手の記録は250ヤード台後半。山下との差は約20ヤード。20ヤードというと2番手分の距離だ。
さらに、飛距離の差はドライバー以外にも出るものなので、同じ距離でも打つクラブの番手が1つ以上違うもの。ということは、20ヤード分プラス1番手で、山下とロングヒッターとでは、グリーンを狙うショットの番手が基本的には3つ以上違うことになる。
例えば、ロングヒッターが8番アイアンでグリーンの上からドンッと直接ピンを攻められるホールでは、山下は5番のユーティリティでグリーンやピンを狙うことになる。
状況の良し悪しは残り距離だけでは決まらないが、基本的には2打目で距離が残り、大きな番手を使わざるを得ないのは不利であることはいうまでもない。
だが、飛距離が出る方ではない山下の平均バーディ数は1位。
女子ツアーでドライビングディスタンスの計測が開始された2017年以降、ドライビングディスタンス50位以下で平均バーディ数1位となったのは、17年の申ジエのみで、ほとんどのシーズン、飛距離が出る選手、もしくはロングヒッターとは言えないまでも比較的飛距離が出る選手が1位になっている。
山下がバーディを量産している理由はどこにあるのだろうか。
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■トラックマンにより磨かれた距離感
飛距離が出る方ではない山下がバーディを量産できるのは、縦距離が乱れないからだ。スイングに安定感があり、ミドルアイアンより大きな番手でもフルショットの飛距離の再現性が高い。さらに、番手間の距離や、ピンまで数十ヤードの中途半端な距離でもピタリと合わせられる優れた距離感を持っている。
細かな距離の打ち分けは、スイングのリズムやテンポを一定にした上で、微妙に大きさや力感を調整する必要がある。
山下がその繊細なフィーリングを獲得できた理由の一つにトラックマンの存在が挙げられる。
山下はルーキーイヤー2020年の夏、獲得賞金がまだゼロの時に約300万円をかけ弾道測定器トラックマンを購入した。番手間の距離を打ち分ける距離感を磨くためだ。
トラックマンは軍事用ミサイル開発の技術を応用した、弾道追尾システムを搭載しており、世界のトッププロが使用している。
レーダーが飛んでいるボールを追いかけてデータを測定するため、屋外で正確な弾道測定ができるのがトラックマンの特徴。風が吹けばその影響も受けたデータが出るため、ドライビングレンジや本コースで使うことで、より実践的な取り組みが可能になる。
ショットした時、実際の飛距離(その他データ)はどうだったのか。それは打つ前のイメージやインパクト時の感覚と合っているのか、を把握することができる。より正確にフィードバックできるのだ。
山下は2021年4月のツアー初優勝時にはトラックマン効果を実感。「5ヤード刻みで打ち分けられるようになってきた」と胸を張り、「3ヤード刻みで打ち分けられるようになることが目標」と語った。今はこの「3ヤード刻み」の領域に入ってきているのではないだろうか。
ちなみに3ヤード刻みとは番手間に2つの設定距離があるいうこと。例えばベースとなる設定距離が7番アイアンで140ヤード、6番アイアンで150ヤードだとしたら、143~144ヤードと146~147ヤードも、6番アイアンで調整するなどして打ち分けられるということだ。
■連続トップ10 昨季の自己記録更新へ
山下は昨季、連続トップ10の記録を13試合まで伸ばしたことがある。今回はその記録を更新しそうな勢いだ。2000年代に絶対女王として君臨していた不動裕理の16試合という連続トップ10のツアー記録に並び、さらに新記録を樹立しても不思議ではない。
7月には海外メジャー全米女子オープン、8月には全英女子オープンに出場する。初めて出場した海外メジャーが昨年の全英女子オープンで、13位タイという好成績をおさめた。
JLPGA公式女子プロゴルフ選手名鑑のインタビューでは今年の目標について「国内の試合も海外メジャーでも優勝できるようにやっていきたい」と答えた山下。海外メジャーで優勝するためには今の調子を落とすわけにはいかない。引き続き、2年連続女王へ快走する山下の進化に注目していきたい。
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著者プロフィール
野洲明●ゴルフ活動家
各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。