【プロ野球】トレバー・バウアーの絶叫に見る、投手が一球一球に込める勝利への熱い思い | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【プロ野球】トレバー・バウアーの絶叫に見る、投手が一球一球に込める勝利への熱い思い

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【プロ野球】トレバー・バウアーの絶叫に見る、投手が一球一球に込める勝利への熱い思い
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当初封印していた「刀パフォーマンス」も徐々に出てくるようになり、横浜DeNAベイスターズのトレバー・バウアーも「本領」を発揮するようになってきた。7月1日の中日ドラゴンズ戦では味方の拙守で絶叫、大きな話題を提供した。

◆【実際の映像】ヤクルト戦、3者連続三振に切って取り、ここでも絶叫するバウアー

■ファイティングスピリットの表れ

 彼はクリーブランド・インディアンズ時代(現ガーディアンズ)、2016年のアメリカン・リーグ・チャンピオンシップ・シリーズの登板を前に指を不注意で切ってしまい、出血しながらマウンドに立っていたのが印象深い。ボールに血がついてしまうという相手監督の抗議を受けた審判に降板を命じられたが彼はファイティングスピリットを失っていなかった。

その数年後自軍の監督に降板を命じられたときにバックスクリーンに向かってボールを投げつけたことがある。今の40代以上の人がそのシーンを見たら読売ジャイアンツで同様の行為をしたバンビーノ・ガルベスを思い出したことだろう。その後も勝負どころで三振を奪ったときに大きく口を開け「アー」と叫ぶことが多かった。

 日本では野手に足を引っ張られても投手が怒りをあらわにすることは奨励されていない。昔はあったのかもしれないが、私がプロ野球を見てきた50年余りの間に、野手の失策に対してグラウンドでグラブをたたきつけたのは中日ドラゴンズの星野仙一と阪神タイガースの下柳剛の二度しか見た記憶がない。

バウアーの絶叫によりDeNAに不協和音が生まれたかと心配したファンはいたかもしれない。もちろん球団のほうはメジャー時代のバウアーの言動は調査済みのはずで、十分予見されていたと思われる。むしろチームはピリッとしたのではないだろうか。その証拠というわけではないけれども、昨年ノーヒットノーランを達成してもまったく表情を変えなかった今永昇太がバウアー絶叫後最初の登板では何度も大声をあげていた。ノーヒットノーラン達成の瞬間ににこりともしない投手は初めて見たことも書き添えておきたい。

 近年の投手は、以前書いたように味方の好守に対して感謝する動作が半ば義務づけられるようになったのだから、拙守に対しては怒りをあらわにしてもおかしくはないのに、と前から考えていた。足を引っ張られたときだけ感情を押し殺すのを強いるのは一方的に投手に対して気の毒な状況だと私は思う。

■野茂、能見、涌井のようなタイプ

野茂英雄(ロサンゼルス・ドジャーズ、1996年4月8日) (C)Getty Images

 私自身は、野茂英雄のように、どちらにしても感情を出さないほうが好きである。能見篤志が引退した今となっては、中日ドラゴンズの涌井秀章がその典型だ。数年ほど前は上原浩治前田健太のように「わかりやすい」表情の投手もいたし、田中将大も渡米前は打者に向かって吠えることも多く、沢村賞を初受賞したときには選考委員からこの点をたしなめられたこともあった。田中はその後それを意識してかどうかはわからないが、帰国後の今に至るまで以前にくらべて抑え気味にしているように思われる。

 沢村賞を初めて田中が受賞したこのとき、「投手はそれくらいの気概をもって勝負しないと打者を抑えられない」と田中を擁護したのは時の上司、ほかならぬ星野仙一監督(当時)だった。楽天の松井祐樹が登板するときなどは、声を出さないものの、「殺意」すら感じさせるような眼光鋭い顔で投球動作に入っていくのも大変興味深い。

 確かに上原もメジャーにいたころ「感情を抑えて平静を装うのはそれがストレスになるのでわかりやすく発露させたほうがよい」と言っていた。昨今はいろいろなスポーツで選手のストレスを最小限にすることの必要性が強調されており、ルーティーンを大事にすることもそのひとつで重要視されている。

 一方で相手チームや自軍の監督に「この投手は動揺している」と見られるより「まったく動じていないようだ」と思わせるほうが得策という考え方もあるだろう。

 投手のそれぞれのスタイルなので涌井のように何があっても表情を変えないのも、バウアーのように喜怒哀楽を表に出すのも、どちらもプロの野球らしくてよいと思う。

日本代表としても活躍した能見篤史 (C) Getty Images

 ただ、無表情を装う投手もみな心の中は熱い。現役時代の能見が東京ドームで一度だけ感情を露わにしたのを見たことがある。同点の場面で降板を命じられたときで、味方の拙守はなかったけれども、先発して終盤まで投げて勝ち星がつかないと決まった瞬間である。悔しい思いは当然想像できるが、それまで鉄仮面のような表情を貫く投手だったがダッグアウトで思いっきりベンチをスパイクの裏で蹴ったことがある。

 投手が勝ち星を挙げたいために火のような熱い思いを胸に秘めて一球一球投げているのがよくわかる。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

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