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強い。
まさに圧勝だった。
◆【実際のKOシーン】井上尚弥がスティーブン・フルトンを追い込み、右ストレートが炸裂
■ボディジャブですんなりと主導権を握る
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井上尚弥(C)SECOND CAREER
WBC、WBO世界スーパーバンタム級王座に挑戦したモンスター、井上尚弥(大橋)がスティーブン・フルトン(アメリカ)を8ラウンドTKOで破り、井岡一翔(志成)に次ぐ日本人2人目の4階級制覇に成功した。
勝負を分けたポイントは両者の距離だ。
強いショートパンチを打ちたい井上に対して、フルトンは長いジャブでペースをつかみたい。しかし、初回から鋭いジャブを当てたのは挑戦者、井上だった。特に有効だったのは、ボディへのジャブ。これまであまり多用しなかったこのパンチで、すんなりと主導権を握った。
2回になると、モンスターはすでにフルトンのパンチを見切ってしまった。そして右の強打を繰り出す。ブロックやボディワークでクリーンヒットは許さないが、チャンピオンの表情から余裕は消えてしまった。
序盤を制した井上は、さらに攻勢を強める。6ラウンドにはディフェンス・マスターと称されるフルトンをロープに追い込む。ここまでの公式採点は、ジャッジ2人が井上のフルマーク、残る1人も第5ラウンドを失っただけだった。次第にKOの予感が強まる。
■練習してきたコンビネーションで最強王者を葬る
2団体のベルトを持つチャンピオンが意地を見せたのは7回だった。これまで空転していたワンツーが2発クリーンヒット。モンスターがのけぞると、満員の会場からざわめきが起こった。このラウンドは明らかにフルトンが取った。
そして、8ラウンド、1分。再三、強烈なパンチを突きつけられていたチャンピオンは、すでに心身に疲労がたまっていた。試合を通じて有効だったボディジャブから右ストレートのコンビネーションに、フルトンはまったく反応することができなかった。たまらず両手をキャンバスにつくところに、モンスターが左フックを追撃。ダウン経験のない王者が力なくリングに倒れ込んだ。
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次戦への意欲を見せた井上尚弥 (C)SECOND CAREER
立ち上がった最強王者を連打でストップした井上は、試合後、「練習してきたパンチ」と満足感を隠さなかった。まさに「度肝を抜く」TKO勝利だった。■年内に4団体のベルトをかけて統一戦か
試合後、リング上には、WBA、IBFチャンピオンのマーロン・タパレス(フィリピン)が2本のベルトを持って登場。なんとトップランク社のボブ・アラム プロモーターを挟んで3人で記念撮影をするという異例の光景が繰り広げられた。そして、「年内にやろう」という井上の呼びかけに、タパレスも頷いた。
もし「井上 vs. タパレス」が実現すれば、わずか2戦でスーパーバンタム級の4本のベルトを統一することになる。
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転向後初戦で二冠王となった井上尚弥(右)と会場で観戦し年内の4団体統一戦に応じた二冠王マーロン・タパレス(c)SECOND CAREER
タパレスの戦績は37勝(19KO)3敗。今年4月にムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)に番狂わせの判定(2-1)で勝ってチャンピオンになった。サウスポーのボクサータイプはモンスターが最も得意とする相手。強打の餌食となるだろう。
個人的には、同じフィリピン人でも、ひと足先にスーパーバンタムに上がっているジョンリル・カシメロとの試合が見たい。対戦が実現していない因縁の相手。盛り上がるはずだ。
井上はかねてから、「ボクサーは35歳まで」と公言している。その年齢まであと5年。1年に2試合を行うとしても、残り10試合となる。じっくりとその軌跡を目撃したい。
◆井上尚弥、試合後の記者会見で「気持ちいい最高の日になりました」 「彼が勝つべき日」とフルトン
◆井上尚弥、自分は「スーパーバンタム級最強と言える」 残り2本をかけて「年内やりましょう!」と宣言
◆井上尚弥、8R1分14秒TKO勝ち “右ストレート”でフルトン圧倒し世界4階級制覇 2階級4団体統一へ前進
著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。