
15日(日本時間16日)に、レッドソックスからジャイアンツに電撃トレードされたラファエル・デバース内野手。生え抜きのスーパースターであり、チームの顔だったデバースの突然の“放出”はレッドソックスファンのみならず多くのMLB関係者をも驚かせた。
この電撃的なトレードは、アレックス・ブレグマン加入により正三塁手であったデバースが球団から指名打者への転向を要請されたことに対して抱いた不満から発展していると考えられる。結果的に指名打者転向を受け入れたでデバースだが、トリストン・カサス内野手が今季絶望となる怪我をおったことで、球団はデバースへ一塁手コンバートも含むポジションに対する柔軟な対応を要請したのだ。
これら一連の流れにより、2024年から10年総額3億1350万ドル(約465億円)の契約延長を果たし、自他共に認めるチームの顔であったデバースと球団との関係性が悪化。電撃トレードにつながったと考えられる。
レッドソックスはこれまでにも、球団の生え抜きやスーパースターを放出する戦略を数多く取ってきたが、MLB史に残る大きなトレードがいくつも存在する。
◆【画像】レッドソックスの“超大型トレード”はどうだった? インフォグラフィックで振り返る過去のビッグディール一覧
■ベーブ・ルースから始まった生え抜き放出の歴史
レッドソックスのトレードを語る上で欠かせないのが、ベーブ・ルースの放出だろう。野球の神様として知られる“二刀流”のスーパースターは、レッドソックスでプロデビューを果たすと1918年には、大谷翔平投手が達成するまで唯一となる「シーズン10勝&10本塁打」の記録を打ち立てるなどリーグの顔として活躍をみせた。しかし、1919年に球団はベーブ・ルース氏を金銭トレードによりニューヨークヤンキースに放出。
これ以降、2004年にワールドチャンピオンとなるまで86年間もの間優勝から遠ざかっていたこともあり「ベーブ・ルースの呪い」「バンビーノの呪い」として揶揄され続けてきた。トレード後はヤンキース最初の黄金期を支えることとなったベーブ・ルース氏。生え抜きスター最初の放出は間違いなく失敗だったといえるだろう。
■“ボストンの英雄”を放出して達成した、86年振りの世界一
2004年のシーズン中に行われたノマー・ガルシアパーラの放出も、レッドソックスの球団史における大きなトレードの1つだろう。1994年にレッドソックスから1巡指名された、“生え抜き中の生え抜き”選手だったガルシアパーラは、1996年にメジャーデビュー後またたくまに球団の顔となる。1999年からは2年連続で首位打者に輝くなど、ヤンキースのデレク・ジーター、マリナーズのアレックス・ロドリゲスと並ぶ「遊撃手御三家」として大きな人気を集めた。
しかし、FAリスクを意識していたことに加え、アキレス腱故障後の守備パフォーマンスに不安を抱えていたガルシアパーラに対して、球団は水面下で放出を検討。“ボストンの象徴”ともされたガルシアパーラは、報道に対して球団に対する不信感を募らせることとなり関係は悪化。結果としてシーズン中に4球団が絡むトレードの末カブスに放出することとなった。このトレードにより、ダグ・ミントケイビッチ内野手、オーランド・カブレラ内野手のゴールドグラバーを獲得したレッドソックスは狙い通り守備の改善が図られ、見事86年振りのワールドシリーズ制覇を果たしたのだ。チームの顔を放出することに対しては、ファンから悲しみの声もあがり大きな論争となったが、結果として2004年の世界一への布石となったことからもこのトレードは成功だったといえるだろう。
■史上最悪のトレード?ベッツ放出後の対象的な2チームの成績
一方で「史上最悪のトレード」と揶揄されることもあるのが、2020年のムーキー・ベッツ内野手の放出だろう。2011年全体172位指名と、決して高い評価だったわけではないベッツだが、2014年のメジャーデビュー後そのずば抜けた身体能力でゴールドグラブ賞やシルバースラッガー賞を複数回受賞。2018年にはMVPを受賞するなどチームの生え抜きスターに成長したベッツだが、2020年2月の短年契約更新後突如としてドジャースへのトレードが発表されたのだ。デビッド・プライス投手と共にドジャースに放出される形となったベッツだが、ここには贅沢税回避とロースター調整の意図が大きくあったことから、チームの財政面と複数年契約に対する考えが反映されている。
しかし、ベッツの対価として受け取ったアレックス・ベルドゥーゴ外野手、ジーター・ダウンズ内野手、コナー・ウォン捕手の若手3選手は「対価として見合わない」と評されることが多く、実際に現在もチームに残っているのはウォンだけ。さらに、ベッツは2020年のシーズン途中でドジャースと12年総額3億6500万ドルで契約延長を果たし、事実上の“終身契約”を結んだことから、レッドソックスファンからは「球団が正当な評価を下していればベッツはフランチャイズプレイヤーとしてボストンで現役を終えていたはず」と大きな批判を浴びることとなった。ベッツ移籍以降、レッドソックスはア・リーグ東地区において最下位3回、ポストシーズン出場も1回と目立った成績を残せていない一方で、ドジャースはワールドシリーズ制覇2回と明暗がくっきりわかれることとなった。
もちろん、ベッツ1人の力によるところではないかもしれないが、巨額契約に慎重になり生え抜きスターに対してオファーを出せなかった球団の姿勢と、長年にわたる低迷の事実を考えれば、2004年のトレードとはうってかわって大失敗のディールといっても過言ではないだろう。
■デバース放出で今季は白旗? 試されるチーム方針
その他、ここ十数年でといえばジョン・レスター投手のトレード、ザンダー・ボガーツ内野手のFA流出、クリス・セール投手のトレードなど他球団と比べてもビッグネームの放出が目立つレッドソックス。ロマン・アンソニー外野手、クリスチャン・キャンベル内野手など、自球団が指名したリーグ全体のトッププロスペクトたちがメジャーデビューするなどファームシステムには定評があるものの、対価として獲得した若手選手の活躍などを踏まえるならば過去10~15年の傾向では、レッドソックスは“トレード巧者”とは言い難く「放出の損失の方が目立つ」といえるかもしれない。
そして、今回のデバース放出によってフロントの方針の揺らぎや選手とのコミュニケーション不足などが表面化したことにより、これまで以上にファンから大きな批判を浴びているのも事実だ。ファンと球団の信頼関係をどう修復するか。それこそが、レッドソックスが次に果たすべき、フランチャイズ運営の命題となっているのかもしれない。
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レッドソックス主要トレード分析
生え抜きスター放出の歴史とその結果
1919年ベーブ・ルース投手/外野手トレードの狙い財政的な理由金銭トレード即座の資金調達もたらした効果86年間の優勝からの遠ざかり「バンビーノの呪い」ヤンキース黄金期の礎史上最悪級の失敗トレード
2004年ノマー・ガルシアパーラ遊撃手トレードの狙いFAリスク回避守備力の向上チーム内関係の改善もたらした効果86年ぶりのワールドシリーズ制覇守備の大幅改善「呪い」からの解放大成功 – チャンピオンシップ獲得
2020年ムーキー・ベッツ外野手トレードの狙い贅沢税回避ロースター調整長期契約回避もたらした効果ドジャース2度のWS制覇レッドソックス3度の最下位対価選手の期待外れ現代版「史上最悪のトレード」
2025年ラファエル・デバース三塁手トレードの狙いポジション柔軟性の要求チーム内関係の悪化フロント方針の変更予想される効果ファンとの信頼関係悪化今季の競争力低下将来性は不透明結果は今後判明