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
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2年前に脚光を浴びたルック・695のように、久々にロードバイクシーンの主役となるに値するバイクが登場した。この新型マドン、そこいらのニューモデルとは存在の重要度が違う。その内部に「未来への提言」を多く含んでいるからだ。5200~5500の時代からトレックのトップモデルをテストしている安井が、同社技術陣が示す新たな世界観と向き合った。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
ピナレロやキャノンデールなどのブランドを持ち上げて、よく 「トレンドリーダー」 とか 「先進的」 と評したりするが、2013シーズン現在のロードバイクシーンにおいて、技術的に最も尖っているブランドは間違いなくトレックである。
このアメリカンブランドは、2007年までホリゾンタル・細身のノーマル形状チューブ・ノーマルヘッドに固執した伝統的なフレーム作りを続けてきた。しかし08年、それまでの保守的な姿勢が嘘のように設計思想を豹変させ、BB90やシートマストなどの独自規格を満載したマドンを発表、我々自転車ファンの度肝を抜く。
そして2012年、マドンは再び突然変異する。追加された主な要素技術は2つ。KVF形状とダイレクトマウントブレーキである。空力性能強化、剛性バランス追求などの 「新しいコンセプト」 がもはや新しいものではなくなった今、トレックは新型マドンに世界初となる新規格ブレーキを搭載し、その先進性を強く印象付けた。また、7シリーズのフレーム単体重量を750gに仕上げてきたこともニュースである。スーパーシックスEVOが火を付けた 「万能量産車による第二次軽量化戦争」 の真っただ中にある現在だが、トレック曰く 「シートマスト、ベアリングセット、フロントフォークを含めたシステム重量では新型マドン7シリーズが世界最軽量」 だそうだ。
新型にはいつも通り数種類のグレードが設定されるが、今回取り上げるのはシリーズ最強のマドン7.9。昨今、色々とあったトレックの看板を背負って戦うバイクである (比較のため、同時に6シリーズも借りて乗り比べた)。今回は、トレックのトップエンジニア、クリス・ポメリン氏へのインタビューを交えながら、新型マドン評論を進めていこうと思う。
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長らくロードフレームのエアロ化には着手していなかったトレックだが、それは興味がないフリをしていただけだった。TTバイクであるスピードコンセプトを叩き台として水面下では開発を進めていたらしく、新型マドンはカムテールデザイン (トレックが言うところのKVF=カムテール・バーチャル・フォイル形状) を全身に纏って登場した。まず設計者本人に聞いておきたいのは、「フレームのエアロ化は本当に意味があるのか」 である。
Q:走行中の空気抵抗の主な発生源は身体だと聞きます。フレームの空気抵抗を減らしたところで、それほど意味がないのでは?
いきなり失礼な質問をぶつけてしまったが、この若く優秀なエンジニアは終始笑顔を絶やさず、穏やかに答えてくれた。
A:それは確かに事実です。実験をしたところ、ロードバイク全体の空気抵抗の割合は、身体が80~85%、バイクが15~20%という結果になりました。でもバイクメーカーとして、その “15~20%” を無視するわけにはいかないのです。“15~20%” をできるだけ減らしてライダーを援助するために、KVFを開発して搭載しました。それに、100~200kmという長距離を走った場合、フレームの空気抵抗を削ることは決して無駄にはなりません。
とはいえ、カムテールデザインはいまや特段驚くことでも最先端の技術トピックでもない。効果のほどはさておき、開発資金が潤沢なブランドではどこも取り入れはじめており、エアロロードと呼ばれる高性能車の世界では当たり前になりつつある技術である。最大の注目点は、突然変異ポイントである新規格ブレーキだ。しかし、なぜこれだったのか。ロード用新世代ブレーキの選択肢は他にもあったはず。
Q:ブレーキ規格が乱立しつつある現在ですが、なぜ新しい規格であるダイレクトマウントを選ばれたのでしょうか?MTBの経験も豊富なトレックならディスクブレーキ化も容易だったと思うんですが。
A:もちろん、候補の中にディスクブレーキという選択肢はありました。でも、ロードバイクをディスク化する必要性がそれほど大きくなかったんです。制動力はダイレクトマウントで十分であり、軽量性を犠牲にしてまでディスクブレーキ化する理由はありませんでした。軽量性、制動力、空力性能、安全性、全てを高いレベルでバランスさせることができたのが、このダイレクトマウントだったわけです。
Q:シートステーにブリッジは必要なかったんでしょうか?ブレーキ台座としてはもちろんいらないんでしょうが、ブリッジを付けると剛性が上がるような気がするんですが。チェーンステーにブリッジを設けているフレームも多いですし。
A:実はブリッジをつけたプロトタイプも作ってテストしていました。でも、ブリッジがなくても十分な剛性が出ていたんです。ブリッジを省けば軽量化にもなりますし、シートステーの柔軟性も上がります。
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今回は、ワイヤー交換やシュー調整など、ダイレクトマウントブレーキを一通りいじってみた。想像通り、メンテナンス性はよくない。ワイヤーは通しにくく固定しにくく、リアブレーキの調整をしていると腰を悪くしそうである。しかし、性能のためにメンテナンス性を犠牲にするという割り切りは、個人的には嫌いではない。“お客様の貴重なご意見” なぞをバカ正直に聞いていたのでは、いつまでたっても速く走る機械は進化しない。しかもトレックは、主力機種となるマドンにそれを搭載したのだ。この勇気には驚いた。
とはいえ、ダイレクトマウントブレーキの実際の使用感は、意外にもフツーだった。性能においては従来のキャリパーブレーキに対する絶対的な優位性は感じなかったが、かといってデメリットもなかった。レバーの引きは軽くもなく重くもなく、普通に利く。何の違和感もない。制動力も高からず低からず (ボントレガーのカーボンリム用シューは制動力が強いタイプではないため、マヴィックのエグザリット2用に交換してR-SYS SLRでも走ってみたが、発生する制動力は想定の範囲内であった)。
アーチ剛性はさほど高いとは思わなかったが、<ブレーキキャリパーのシャフト~ブレーキ本体>の剛性が高く、実際のブレーキング時にブレーキシューが前方へと引っ張られるような力に対する耐性は高いと感じる。ブレーキアーチに高い負荷をかけても最後まで制動力が低下しにくく、体重のあるライダーが握りこんだときに真価を発揮するという雰囲気は気取れる。ただ、ダイレクトマウント規格の本命はデュラエース。これが未来のスタンダードになるか否かは、9000系のダイレクトマウントが手元にない今、判断できない。結論を出すのは9000系ダイレクトマウント完成時に持ち越しとするべきだろう。
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