【飯島美和のケ・セラ・セラ】自分のためでなく選ばれた責務として完走を目指した新城幸也
オピニオン
コラム
5月9日、北アイルランドで198選手が華々しくスタートを切った。3444kmを走り、24日後の6月1日、スロベニアとの国境に面したトリエステの最終ステージでゴールラインを越えた選手は156人。ヨーロッパカーの新城幸也もその中にいた。
新城は今大会、3度の転倒に見舞われていた。ステージレースでの落車は選手にとってはまさに大きな痛手。怪我をしたからといって、そこで走ることをやめれば、翌日から出走することができない。その選手にとってのグランツールはそこで終わる。だから選手たちはボロボロになっても、その日のゴールにたどり着く。
新城は第5ステージの落車で尾てい骨を強打。「折れているかも」と、痛みに顔をゆがませる姿を見た誰もが新城のリタイアを覚悟した。しかし、彼はリタイアしなかった。
「もちろん痛い。でもこうして動くなら走る。今、痛みが我慢できれば残り2週間で回復してくるかもしれないし」
怪我の回復に必要なのは3週間という時間の長さだと彼は知っていた。
回復に向かっていた矢先、集団で落車が発生という無線が入る。新城の名前も読み上げられていて、私はプレスカーを運転しながら震えた。現場に到着すると集団の最後尾に救急車が止まっていた。その落車に巻き込まれていた選手がしばらくチームメイトに助けられて走っていたが、足を止めた。ゼッケンが背中から剥がされ、頭を抱え泣きながら救急車に乗っていった。一度もシャッターを押すことができずに、ただ泣いていた私はジャーナリスト失格と自覚する。
新城は負傷している尾てい骨をまた強打し、ドクターカーから痛み止めの薬をもらったというが、再び痛みとの戦いが始まる。走るのをやめない彼をみて、いったいなんのために走るのか。どうして、そこまでして走るのか。そんな思いに駆られていた私に新城は言った。
「完走? そんなにこだわりはない。でも、グランツールを走る選手には選ばれた責任がある。痛みが我慢できる限り、走り続けていれば最後までチームのためにできることはある。そしたらそれが次につながる」
自分の完走のためだけに走っていたら、とっくにリタイアしていたかもしれない。でも走り続けるのは自分のためだけじゃないんだ。選手たちが『やめない理由』がわかった気がした。
この後も落車に見舞われた新城だったが、また起き上がり、走り出し、6度目のグランツール完走を果たした。
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