【THE REAL】ACLで演じられた死闘の残像・その1…川崎フロンターレ・奈良竜樹が抱く悔恨と闘志 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】ACLで演じられた死闘の残像・その1…川崎フロンターレ・奈良竜樹が抱く悔恨と闘志

オピニオン コラム
川崎フロンターレ・奈良竜樹 参考画像
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虚脱感に襲われながらむしり取ったテーピング


ピッチに突っ伏したまま、おそらく泣いていたのだろうか。

夢の途中での敗退を告げる無情のホイッスルが夜空に鳴り響いた瞬間、川崎フロンターレのDF奈良竜樹は埼玉スタジアムの芝生に顔をうずめていた。

4分間が表示された後半アディショナルタイムが2分をすぎたあたりから、パワープレーを狙って前線にシフトした。1点をもぎ取れば再逆転できる。準決勝へ進むことができる。必死にボールを追った。

守護神チョン・ソンリョンが蹴ったロングボールを、DF遠藤航と競り合う。空中戦を制して、祈りを込めながらゴール前へボールをすらす。しかし、守りを固めていた浦和レッズの赤く、厚い壁にはね返される。

DF槙野智章が大きくクリアした直後に、サウジアラビアのファハド・アルミルダシ主審が試合終了を告げた。着地した際に体勢を崩していた奈良はそのままピッチで仰向けになり、そして体を反転させた。

激闘を称えるMF柏木陽介たちにねぎらわれ、何とか力を振り絞って立ちあがった。それまで頭に痛々しく巻かれていたテーピングがむしり取られていた。右目の上あたりは、まだ腫れあがっていた。

後半7分。ゴール前で自らがクリアし損ね、真上にあがったボールをDFマウリシオと競り合ったときだった。飛び出してきたソンリョンにはさまれるかたちで、強烈なプレッシャーを背中から受けた。

予期せぬ勢いが空中で生まれ、マウリシオの頭部の一番硬い部分に右目の上がぶつかった。起き上がることができず、試合が中断するほどの痛みに襲われた。ピッチ外で応急処置を施され、テーピングが巻かれた。

「大丈夫です。当たって腫れただけです」

レッズの喜びと、フロンターレの悲しみが交錯していた試合後の取材エリア。裂傷は負っていないと心配無用を強調した奈良の頭には再びテーピングが、幾重にも巻かれていた。


一瞬の躊躇が招いた興梠慎三の同点ゴール


フロンターレがファーストレグを3‐1で快勝して迎えた、13日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の準々決勝セカンドレグ。前半19分に試合はいきなり動いた。

MF中村憲剛の絶妙のスルーパスに飛び出した、DFエウシーニョが先制ゴールを奪う。この段階でレッズは最低でも3点を奪わなければいけない、断崖絶壁の状況に追い込まれた。

しかし、前半38分に宣告された、左サイドバック・車屋紳太郎の一発退場とともに流れが一変する。高くあげた足の裏が、競り合ったFW興梠慎三の頭に当たった場面が「著しく不正なプレー」と見なされた。

フロンターレの鬼木達監督は4分後に中村をさげて、MF田坂祐介を左サイドバックに投入した。結果論で言えば、このさい配が裏目に出た。しかし、奈良が悔やんだのは車屋が退場する直前の守りだった。

連携ミスを悔やむ
(c) Getty Images

「先制点を取りにいく、攻撃的にいくというところで、いいかたちで先制できましたけど……あの1点、興梠選手の1点というのは、もうちょっと彰悟君と2人でしっかり連携を取るべきだった。そんなに難しいゴールではなかったけど、お互いにちょっと譲り合ってしまった部分があったので」

MF矢島慎也のスルーパスに鋭く反応した興梠に、自分と谷口彰悟の間を突破された。どちらが潰しにいくのか。フロンターレのセンターバックコンビに生じた一瞬の躊躇を、31歳のベテランは見逃さなかった。

あと2点を取れば、延長戦に入れる――レッズを勇気づける同点ゴールは防げていたからこそ、身上でもある球際の激しさ、厳しさが欠けてしまったことが表情を曇らせる。そして、車屋の退場が拍車をかけた。

「強い相手と戦うときに、一人少ない状況は向こうのアドバンテージになるし、ましてや浦和さんのホームだったので。その意味で、チームとしての方針を見つけるのにちょっと苦労したというか」


悔やまれるセットプレーから与えた2失点目


迎えたハーフタイム。システムを「4‐4‐1」として、まずは自陣でブロックを形成。チャンスがあればカウンターを仕掛け、攻撃の最後はシュートで終わる、という戦い方を確認しあった。

それでも10人で戦う以上は、どうしてもズレや隙が生じる。レッズのパス回しがさえた後半は、ほぼ一方的な展開になった。シュート数はレッズの15本に対して、フロンターレは何と0本だった。

「前へボールを運んでくる浦和さんに対して、上手くプレスがかからなかった。最悪の場合は自分のところで全部はね返してやろうと考えていましたけど……そんなに甘い相手ではなかった」

体を張ってレッズの猛攻を耐え忍んだが、残り20分間で3ゴールを立て続けに奪われて力尽きた。セカンドレグのスコアは1‐4。2戦合計で4‐5と大逆転を許した。それでも、と奈良は必死に言葉を紡いだ。

「細かい部分でやられてしまいましたけど、でも2点目に関してはセットプレーなので。こっちの人数が10人だったという状況は関係ないし、そういう意味でもあの1点をもうちょっと我慢して粘れれば。そうなれば僕たちにもまた勇気がわいていたし、浦和さんには焦りが生まれていただろうし」

後半だけでレッズは13本のコーナーキックを獲得した。そのうちの9本目、右から左利きのMF柏木陽介が蹴った、ゴールに向かって巻いてくるボールをFWズラタンに頭で決められた。

マーク役は5分前に途中出場していたDFエドゥアルド。しかし、試合の波に入り切れていなかったのか。簡単にズラタンをフリーにして、余裕のある体勢でヘディングを許してしまった。奈良が再び悔いる。

「厳しい試合ではセットプレーが勝敗を分ける、とずっと言われてきた。その意味でも、相手に勢いを与える2点目をああいう形で与えてしまったことはもったいなかった」


中2日の強行日程で臨む清水エスパルス戦へ


クラブの歴史上で初めてとなるACLのベスト4進出も、その先にあるアジア制覇の夢も、すべてが消え去った。喪失感や虚脱感は小さくない。それでも、次の戦いはすぐ目の前に迫ってきている。

16日には清水エスパルスのホームに乗り込み、明治安田生命J1リーグ第26節を戦う。残り9試合となった今シーズン。フロンターレは首位の鹿島アントラーズを、勝ち点6ポイント差の2位で追っている。

「清水戦は中2日で本当にタイトなスケジュールですけど、ここでズルズルといくか、しっかりと勝ち切れるかで、チームとしての道が決まってくる。チームとしての強さを見せつけたい」

逆境に直面したからこそ、心の強さが問われる。傷心のチームを鼓舞するかのように、奈良は努めて前を向いた。負の連鎖を断ち切れなければ、勝負弱いと揶揄されてきたフロンターレのままだ、と。

20日には舞台をホームの等々力陸上競技場に変えて、再びエスパルスと対峙する天皇杯4回戦が続く。10月に入れば、YBCルヴァンカップのファイナル進出をかけたベガルタ仙台との準決勝が待つ。

「幸いというか、まだ3つ残っている。僕たちには前を向いて戦う理由がたくさんあるし、その意味でこれはチームにとって大きな試練だと思っている。本当は浦和戦での試練を乗り越えたかったけど、勝ち切れなかった悔しさや、一人ひとりが感じた課題や反省を、これからの一戦一戦にぶつけたい」

富士通サッカー部を前身とするフロンターレが創設されたのが、ちょうど20年前の1997年。以来、J1で3度、ヤマザキナビスコカップで3度、そして今年元日の天皇杯と計7度も2位に甘んじてきた。

ACL制覇の夢は絶たれたが、悲願の初タイトル獲得へのチャンスは潰えていない。先発メンバーで最年少となる、23歳の奈良が絞り出した言葉が、残された戦いへの羅針盤となる。

《藤江直人》

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