駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場(東京都世田谷区)で2月3日・4日と行われたスポーツクライミング第13回ボルダリングジャパンカップ。成長著しい中学生クライマーにおよばず、表彰台を逃して5位に終わった野中生萌(みほう、東京都連盟)は表情を曇らせた。
4日の女子決勝はベテランの野口啓代(あきよ、茨城県連盟)が優勝。28歳8カ月で最年長優勝記録を更新したが、2位は14歳の森秋彩(あい、茨城県連盟)、3位は15歳の伊藤ふたば(岩手県協会)と中学生が並んだ。
前回大会は伊藤が14歳9カ月で初優勝を飾り、第1回大会を16歳3カ月で制した野口の記録を更新。森も4位とユース世代の両者がシニア選手の脅威となっていた。
ワールドカップ(W杯)など国際大会での優勝、表彰台獲得も多い野中ですら「単純にみんなが強い」と舌を巻く。自身についても「単純に弱かった」とシンプルに負けを認める。
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ボルダリング大国の日本
日本のボルダリング界は男女ともに世界最高レベルにある。ボルダリングジャパンカップは「W杯よりも勝つのが難しい」と言われるほどだ。日本人選手にはW杯優勝経験者も多く、その中で競うのだから仕方がない。
現在のボルダリング女子日本代表は野口と野中がS代表として牽引するが、そのふたりに影響を与えるのがメキメキと力をつけてきた中学生クライマーの存在だ。
野口は今回で2大会ぶり11回目の優勝を遂げたが、試合後は「優勝候補が4人5人いる中での優勝で嬉しい」と胸をなでおろした。「クライミング界のレベルもすごく上がってきていて、自分が優勝する機会も減ってしまった。何回(現役を)諦めようと思ったかわからない」と言葉をもらす。
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ボルダリングは5mほどの壁に設けられた複数の課題(ルート)をいくつ登ることができたかで勝敗を決める。決勝は4つの課題が用意され、野口は4課題すべてを完登したが制限時間(4分)ギリギリで登り切ることもあり「奇跡的な完登の連続だった」と笑う。
野口にとって難所となったのは第3課題。傾斜が強い壁を得意とする彼女だが、第3課題のようなゆるい傾斜は苦手だった。ボーナスポイントが与えられるホールド(突起物)になかなか手をかけることができない。残された時間を考慮しながらアプローチ方法を変えていった。
「走って登るような課題とイメージしていて最初はそのムーブでやろうとしたが、4分間ではできないと感じてムーブを変えたのが良かった。でも終了点の前に行くまでにも時間がかかり、最後は時間がなくて捨て身で飛んだ」
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残り10秒を切って伸ばした左手が最終ホールドをつかみ、両手をかけると野口は力強くガッッツポーズを見せた。苦労した第3課題だったが、最後に挑戦した森は154cmの小さな体をスルスルと動かし、なんと一撃で完登してしまった。会場は驚きの声で沸いた。
野口も「ビックリした。登り方がわからず私は悩んでいる時間が多かったが、秋彩ちゃんは一瞬で帰ってきた。なんでこの課題すぐにわかるんだろうって思った」と感心する一方で、「若手がどんどん伸びていて去年も優勝できなかった。今回のジャパンカップで優勝できなかったら、もう自分はダメだなと思ってトレーニングをしてきた」と口にする。
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最終的に、優勝した野口が4課題全完登、2位森と3位伊藤が3課題完登、4位野中が1課題完登となった。世界で戦う先輩クライマーに割って入った森と伊藤だが、本人たちはいたって冷静だ。
「まさか自分が表彰台に登れるとは思っていなかったのでビックリ。(第4課題を登ったら)優勝の可能性があるとわかっていたので絶対登りたかったが、まだ実力不足。登れなくて残念」と森は振り返る。
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第4課題はスタートから次の一手がつかめなかったが、「手は届いていたので、身長で取れなかったというよりは力が足りなかった、技術がなかったということの方が大きいと思う」と分析。2位になったことは自信につながり、モチベーションになると語る。
伊藤は今年からW杯に参戦できる年齢になることもあり「しっかり課題に集中して、もっと引き出しを増やして安定して登れるようにしたい」と見据え、「今日はアテンプト(トライは回数)が重なってしまったり、準決勝の強度の強い課題にまだ対応できていない部分があった」と反省を見せた。昨年は世界ユース選手権ボルダリングを制したがさらなる飛躍を目指す。
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小柄だが「ホールドを握ったら離さない精神力の強さがある」とユース日本代表コーチから評価された森と、長い手足と柔軟性のある体を武器に壁を登る伊藤。シニア勢にとっては脅威でしかないが、2020年東京五輪のスポーツクライミングでメダル獲得を目指す日本代表にとってはこれ以上はない刺激となる存在だろう。
「ずっと自分にプレッシャーをかけてきた」という野口と、来月開催の日本選手権リード競技では「リードもボコボコで(負けてしまって)はまずい。しっかり練習したい」と気を張る野中。中学生の存在が、先輩クライマーの気持ちを奮い立たせているのは間違いない。
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森、伊藤だけではない。6位の谷井菜月(奈良県連盟)も昨年世界ユース選手権ボルダリングで2位となった14歳だ。森と同じ154cmで体の線も細くパワー不足もあるのだろう、決勝は完登数ゼロで見せ場を作れなかったが、準決勝では伊藤を上回る4位につけた。
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東京五輪に向けて世代交代ではなく、新旧のクライマーたちがお互いを刺激しあい切磋琢磨して頂点を目指して欲しいと感じる女子決勝になった。
猛者ぞろいの男子は藤井快が三連覇
男子もハイレベルな戦いが繰り広げられた。2017年のW杯年間ランキング4位の渡部桂太(三重県連盟)、ワールドゲームズ優勝の緒方良行(福岡県連盟)ら実力者でも準決勝で敗退する中で、藤井快(こころ、東京都連盟)が男子史上初の三連覇を成し遂げた。
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藤井は最終第4課題は登りきれず完登は3つとなり、「登って締めくくりたいと思っていたので残念。まだまだ修行が足りない」と苦笑い。「準決勝も2課題登れていない。まだまだ詰められるところがある」とさらなる高みを目指す。
三連覇はもちろんだが、苦手としていたスラブ(奥にゆるく寝ている壁)に設定された第2課題をただひとり登れたことに自身の成長を感じたという。
3位は楢崎智亜(ともあ、栃木県連盟)が入った。一昨年に世界王者となり名を馳せたが、本大会での優勝経験はまだない。「想いの強さで負けちゃったかな。快くんはずっと三連覇したいと言っていた」と仲間を讃える。
今年の目標は世界二連覇だが、勝ちたい大会にW杯八王子大会を挙げた。「(2位に終わった)去年はめっちゃ悔しかった。身近で応援してくれる人の前で優勝したい」と意気込みを見せた。
2位は村井隆一(千葉県連盟)。昨年14位からのジャンプアップ、さらに誰も登れなかった第4課題を一発で仕留めている。今後の活躍に期待したい。
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