「僕がやりたいサッカーを選手に強制することはできない。たとえ試合に勝ったとしても、見ている人がつまらないと思うサッカーをするのもよくない」
選手たちの特徴を見極め、能力を最大限に発揮させる方法を考え抜いた結果として生まれたのが「3‐4‐2‐1システム」。J1とJ2を往復しながらブレることなく戦い続け、喜怒哀楽を刻みながら少しずつ、確実に前進してきた過程でひとつの結論に至るようになった。
著書のなかで、曹監督は「湘南スタイル」をこう位置づけている。
「攻める姿勢をとことん貫くことでお客さんに楽しんでもらい、プレーしている選手たちも充実感を覚える。スタンドとピッチが同じ気持ちを共有しながら、スタジアム全体に『これがベルマーレのサッカーなんだ』と胸を張れる空間を作り出すことが「湘南スタイル」の原点であり、定義でもあるといまでは思っている」
■驚異的に伸びた観客動員数
2年ぶりにJ1を戦っている今シーズン。ホームのShonan BMWスタジアム平塚には明らかな変化が生じている。公式に発表されている数字の面では観客動員数となる。
ホームで13試合を終えた段階で15万6782人を動員し、1試合当たりの平均で1万2060人を記録している。曹監督の1年目の平均が6852人だったから、J2とJ1の違いはあるにしても、観客動員数が微増にとどまっているJクラブのなかで驚異的な伸び率を示している。
スタジアムの規模の関係で、数字そのものは浦和レッズをはじめとする他チームよりも少ない。それでも、1万5100人のキャパシティに対して約80%を達成している点は評価に値する。J1でこれだけ高い数字を残しているのは、約84%の松本山雅FCしかない。
そして、何よりも変化しているのがスタンドの光景だ。
ライトグリーンのユニフォームに身を包んでいるのは、若い世代のファンやサポーターだけではない。年配の夫婦や家族に連れられた小さな子どもたちも、ピッチ上の一挙手一投足に合わせて声援を送り、チャンスになると腰を浮かせて拳を振り上げる。
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曹貴裁監督 湘南ベルマーレ公式サイトより
勝利した後にゴール裏のサポーターたちと一緒になって喜びを分かち合う「勝利のラインダンス」が、ベルマーレの名物になって久しい。いまではメインやバックスタンドのファンやサポーターも、肩を組んでラインダンスのリズムに合わせてステップを刻んでいる。
ホームタウンを平塚市から同市を含む7市3町へ変更・広域化したのが、市民クラブとして再スタートを切った2000年。コツコツと積み重ねてきた地道な努力が、曹監督が掲げた「湘南スタイル」を触媒として、同じ価値観を共有できる空間を生み出すまでに昇華したといっていい。
曹監督は著書のなかで、こう記してもいる。
「大げさに聞こえるかもしれないが、いいプレーと悪いプレーに対するスタンドの反応に関して、2014年のシーズン中には何度もこう思ったことがある。ドイツのブンデスリーガやイングランドのプレミアリーグのような雰囲気に近づいてきたと」
【湘南ベルマーレが急成長を遂げている理由 続く】