【THE REAL】初勝利に導かれた涙の意味…湘南ベルマーレを再加速させる指揮官の眼力とマネジメント力
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
■湘南の一員として
リーグ戦を翌日に控えた練習は、他のクラブならば軽めの調整に徹する。翻ってベルマーレは、セットプレーの確認にしても実戦さながらの激しさでぶつかり合い、熊谷に強烈なカルチャーショックを与えた。
果たして、マリノス戦を翌日に控えた4月29日の練習でも、奈良輪とポジションを争う岡本拓也が左肩を負傷。マリノス戦ではベンチにも入れなかったが、こうした激しさこそが奈良輪が求めたものだった。
「日産スタジアムに着いたときは高ぶるものがあったし、去年までずっと一緒に戦ってきた選手たちと(敵として)話していて不思議な感じもした。自分は性格的に緊張してしまうタイプなので、できるだけ意識しないように努めていましたけど、結局は意識せずにはいられない相手でしたね」
苦笑いで振り返った90分間で、奈良輪は体を張り続けた。後半34分にFW伊藤翔が決定的な状況から放ったシュートにスライディングで飛び込み、右足で懸命に弾き返したのは奈良輪だった。
右サイドから司令塔・中村俊輔に絶妙のクロスをあげられた同42分。ノーマークで飛び込んできたMF齋藤学に果敢な空中戦を挑み、シュートを許さなかったのも奈良輪だった。
齋藤と体をぶつけ合った衝撃でバランスを崩し、落下したピッチに右ひじを強く打ちつけた。もっとも、苦悶の表情を浮かべたのは一瞬だけ。激痛を訴える右ひじを抑えながら、奈良輪はすぐに立ち上がった。
「本当に痛かったけど、無駄に時間稼ぎをしたくない、という気持ちがあったので。正々堂々とぶつかったうえで、マリノスに勝ちたかったので」
4分間が表示された後半のアディショナルタイムが、やたらと長く感じられる。マリノスの猛攻を一丸となって防ぎ、後半3分にキャプテンのFW高山薫があげた千金の1点を死守した直後だった。
今シーズン初勝利を告げる主審のホイッスルが鳴り終わる前に、奈良輪はピッチに突っ伏していた。涙がとめどもなく頬を伝ってくる。嗚咽を漏らしながら、気がつけば鳥肌を立たせながら号泣していた。
「あまり感情を表に出すタイプではないし、実際に泣いたのも人生で1回か2回くらいなんです。なぜ涙が出てきたのかは自分でもよくわからないんですけど、自分を育ててくれたマリノスを見返したいと思っていたわけではないんです。逆にマリノスへの感謝の気持ちをもって試合に臨んでいたし、自分の力をすべて出し切ることで、湘南の一員として認められたいという気持ちもあった。すべてを達成できたことで、素直に嬉しかったのかなと」
勝利の瞬間、ピッチのうえに大の字になって夜空を見上げていた石川の涙腺も緩みかけていた。目の前にいた奈良輪をねぎらいにいくと、たまらずに決壊。奈良輪の肩を抱きながら、石川もまた号泣した。
「いやぁ、ナラ君(奈良輪)の涙につられちゃいました。泣くつもりはなかったんですけど」
試合後の取材エリアで照れ笑いを繰り返した石川だが、もちろん本音は違う。最終ラインの前でフィルター役をほぼ完璧に務め、前半21分にはドリブルで攻め上がってから惜しいシュートも放った。
迷いやプレッシャーをすべてそぎ落とし、ベルマーレの心臓部において攻守両面で躍動した90分間。充実感と楽しさを覚え、そのうえでつかんだ白星はこれまでとは比較にならないほど大きかった。
「勝てないことに対して自分自身も責任を感じていましたし、やっぱり辛かった。それまでの試合では相手のボランチにプレッシャーをかけづらいというか、かけられない状況が続いていたんですけど、今日は前の選手がマークをしっかりと埋めてくれたおかげで、僕も狙いやすかった。前に出てもツボさん(坪井慶介)や(アンドレ・)バイアがカバーしてくれたので、安心してプレッシャーをかけにいくことができた。攻撃面で前の選手が顔を出してくれる回数が多かったので、いいボールを縦に入れることができました」
(次ページ 試合後ロッカールームで)
《藤江直人》
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