ホームで大宮アルディージャに0対1で苦杯をなめて、泥沼の連敗が「5」に伸びてから数日後。石川は曹貴裁監督から個人的に呼び出されている。
向かった先はクラブハウス4階にある監督室。何を言われるのか。怒られるのか。自分が何かしでかしたのか。静寂が緊張感を高めるなかで、指揮官は切り出した。
「最近試合に出ていて、楽しんでいるか?」
図星だった。かねてから曹監督が「透視能力の持ち主」と呼ばれてきた理由がわかったと、心のなかで唸らずにはいられなかった。苦笑いしながら、石川が指揮官とのやり取りを明かす。
「大宮戦の前くらいから『自分が試合に出て何ができているのか』と考え込むこともありましたし、ときには『こんなプレーをしていていいのか』と葛藤することもありました。自分はもともと劣等感が強いタイプで、それがメンタルの弱さにもつながっていたので」
開幕から全試合に出場しながら、時間の経過とともに陥っていった負のスパイラル。誰よりも石川自身が、ピッチのうえでサッカーを楽しめなくなった理由をわかっていた。
キャプテンとしてベルマーレを支えてきたボランチの永木亮太が、オフに鹿島アントラーズへ移籍した。永木とコンビを組んできた菊地俊介も、3月下旬に右ひざ前十字じん帯損傷で戦線離脱した。
日本代表候補にも名前を連ねる、レジェンド的な存在である永木と同じプレーはできない。一方で菊地は全治8ヶ月の重症と診断され、シーズン中の戦列復帰が極めて難しくなった。
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石川俊輝 湘南ベルマーレ webサイトより
残された自分がやらなきゃいけない。同じ1991年生まれの同期入団で、今シーズンから副キャプテンを務める菊地の無念の思いも晴らさなきゃいけない。それなのに、チームは勝てずに最下位に沈んでいる。
熱い想いと非情な現実のアンバランスが心を悩ませ、石川のプレーから躍動感と思い切りのよさを奪っていた。思いの丈をすべて伝えると、曹監督は静かに切り出した。
「お前はもともとそういうものを乗り越えて、ここまで来たんじゃないか」
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