■流れるようなドリブル
イラク代表と日産スタジアムで対峙した6月11日の国際親善試合。日本代表が2点をリードして迎えた前半32分だった。
ルーズボールをキャプテンのMF長谷部誠(フランクフルト)が跳ね返し、MF柴崎岳(鹿島アントラーズ)が頭で右サイドにいたFW本田圭佑(ACミラン)につなぐ。
利き足とは逆の右足で本田が出したパスを、トップ下の香川真司(ボルシア・ドルトムント)が再び柴崎に落とす。小気味いいリズムを奏でながら3本のワンタッチパスがつながる間に、宇佐美は左サイドからセンターサークル内にスルスルとポジションを移していた。
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宇佐美貴史
このとき、宇佐美は同じ1992年生まれで、いわゆる「プラチナ世代」の屋台骨をともに背負ってきた柴崎とアイコンタクトを成立させている。
「あのような場所でボールを引き出して、一気にゴールまでつなげることのできるポジションまでボールを運んでいけるのは自分のストロングポイントでもあるし、それを(柴崎)岳もわかっているので、前へスピードに乗っていけるようなパスを出してくれたと思う」
柴崎の左足からワンタッチで放たれた鋭いパスは宇佐美の足元ではなく、その前方に広がるスペースへ向けられていた。「トラップで流して、そのまま抜け出せ」――パスに込められた盟友からのメッセージを、宇佐美もあうんの呼吸で受け止める。
半身の体勢から右足でタッチしたボールを、自らの前方に弾ませる。この時点で宇佐美の背後にいたイラクの選手はなす術がない。流れるようにドリブルを開始した宇佐美の背中を見るだけで、ファウルで止めることすらもできない。
「ファーストタッチで相手(のマーク)も外せていたし、ドリブルのコース取りも悪くなかったかな」
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